忍者ブログ
オリジナル小説のダストボックス

WRITE | ADMIN

PR
カウンター
プロフィール
HN:
碧井 湊
性別:
非公開
自己紹介:
頭の中には、
いつも何かのストーリー。
なかなか、
文字にならないのが難点。

詳しい事はこちらへ。
メールフォーム
感想・ご意見等 お気軽にどうぞ
Powered by NINJA TOOLS
忍者サイトマスター
バーコード
ブログ内検索
当ブログの利用方法
★プラグイン最上部のブログタイ
 トルをクリックで、トップページ
 へ戻ります。
★トップページより、各小説タイ
 トルをクリックで、目次ページ
 へ進みます。
★プラグイン内「カテゴリー」から
 も、目次ページを開けます。
★小説各ページに「次へ」のリン
 クはありますが、「前へ戻る」
 リンクはありません。プラウザ
 内の「←」をご利用いただくか、
 一度目次ページへ戻るかして、
 ご覧ください。
アクセス解析


忍者ブログ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


web拍手 by FC2


 アース・コーポレーションが全世界を「統一」してから半年。

 世界は大きく変わった。
 
 まず、「戦争」や「紛争」というものが無くなった。
 つまり、「国家」やそれに準ずる組織という存在が必要なくなったから、そのような事で争う必然性が無くなったのだ。
 「国家」そのものも、アース・コーポレーションの一業務部門となったのだから、「国」と言えども、「会社」の方針には逆らえない。広い意味で、「国境」が無くなったのだ。
 
 同時に、各国の通貨は、アース・コーポレーションの社内マネー・CP(クレジット・ポイント)に統一された。だから、為替や貨幣価値の格差も無くなり、世界の経済格差は急激に縮小しつつある。
 CPは、アース・コーポレーションが経営する商業施設や病院、交通機関――つまりは、全ての施設――で使え、「社員証」を機械に通すだけで決済できるようになっている。これまでのような、「現金」を持ち歩くというような事は無くなった。
 それにより、「泥棒」や「詐欺」といった行為も、実質上不可能になった。このシステムが発足した当初は、社員証を盗むという不届きな輩もいたが、本人が経理部にそれを届ければ、CPが即座に凍結され、使えなくなる。盗んだりだまし取ったりしたところで、すぐにただのプラスチック板になってしまうのだ。
 
 「社員証」には他にも、免許証、保険証、住民票など、全ての身分証明の機能も付けられ、これさえあれば、財布を持つ必要もなくなった。カバンを持ち歩くのが嫌いなソウにとって、これは非常に嬉しい事だった。
 
 そして、市民生活にとって、最も大きな変化が、「納税」制度が廃止された事だ。
 考えてみれば当然のことだ。住民は会社で働き、給料をもらう。それで買い物をし、生活をする。会社は、商売をした売上を従業員の給料や福利、社内の設備の設備に使う。
 この、「従業員の給料」と「会社の売上」が全く同じものなのだから、そこでサイクルができる。「社内の設備」=全ての公共機関なのだから、会社としては、税金を取る理由が無いのだ。
 
 このように、一見、アース・コーポレーションによる世界統一はメリットばかりのようだが、だが、デメリットもきちんと存在する。
 
 ソウがタバコを公園でコソコソ吸っていたのは、「法律」よりも「社則」が優先されるからだ。
 「国家」の存在意義が無くなった今、国家の機能のひとつである「立法」も、また行われなくなった。どんな法律を作ったところで、会社の方針や「社則」の方が遥かに強い力を持っているから、全く意味を持たないのだ。
 つまり、世界の方向性は、国会における議論や国民による選挙ではなく、「役員会議」で全てが決定される。
 
 ――未だ、気付いていない人も多いが、これはつまり、「民主主義」ではなく、「帝国制度」そのものだ。
 国民=社員は、何ら決定権を持たない。選択肢すら与えられない。
 全ての社員は、「社命」という名の圧倒的な「力」に支配される、言わば「奴隷」だ。
 だが、アース・コーポレーションのCEO(最高経営責任者)であるミカエル・アイヒベルガーは巧妙で、社員にそれを感じさせないよう、税金を廃止したり、貨幣制度を変えて市民の金銭感覚を麻痺させたりして、いかにもこの制度が欠点の無い優れたものであるかのように見せている。
 ソウは、喫煙者であるから、この真実に辿り着けたのかもしれない。
 社則になど気に留める事すらない健全な生活を送っている社員は、まず、その「罠」に気付いていないだろう。
 
 そして、もうひとつの大きなデメリット。
 ――それは、「社員」以外の人間の存在が許されないところだ。
 「CP」は、社内マネーであるから、社員以外は使えない。従来の貨幣をCPに変換する手続きは、社員以外は行えない。従来の貨幣は、アース・コーポレーションが経営する全ての施設で使えない。――社員以外の者にとって、従来の貨幣は、全くのゴミ屑になったのだ。
 
 他の企業の社員、自営業者、自治組織の公務員、全ての労働者が、アース・コーポレーションの社員として雇用される事になったのだが、その中に入りきらなかった人々も存在する。
 
 まず、主に自給自足の生活を続けている、遊牧民とかそういう類の人々。「自給自足」とはいえ、多少の生活用品は買い物で賄っているのだが、それができなくなった。彼らの多くは、「入社試験」を受け、雇用された者は他の職に就いたが、これまでの生活を守ろうとした者は、極めて原始的な生活を強いられる事になる。――こうして、多くの少数民族の文化が失われた。
 
 また、労働では無く生計を立てていた人々――「貴族」や「王族」といった人々も、その存在が許されなくなった。「社員」となって、何らかの労働に就くか、路頭に迷うか――、彼らにとっては、プライドが許さない究極の二者択一を迫られる事となった。
 
 そして、株価取引や為替で生計を立てていた人々もまた、これまでの生活が成り立たなくなった。――「株」や「為替」というものの存在が無くなったからだ。厳密に言えば、「株」は存在するが、個人での売買が固く禁じられたのだ。アース・コーポレーション以外の株の取引を許してしまったら、現在の一社独裁体制が保てなくなる可能性があるからだ。
 
 それから、最も人数の多いのが――、純粋な「失業者」だ。
 何らかの理由で職に就けない事情を持つ者。社会的弱者。
 「無職」と言っても、専業主婦や就労年齢以前の子供などの扶養家族は含まれない。彼らは、「家族待遇社員」として、社員証を与えられている。
 そうではなく、病気や障害、高齢で雇用してもらえない、身寄りの無い人々、また、社内で問題を起こして「解雇」された人間は、全くもって行き場を失う。
 個人で家を持っていれば、まだ若干の救いはあるが、それを資産として売る事はできない。ライフラインを利用したり、家のメンテナンスを業者に頼む事もできないから、自力でやっていくしかない。
 もっと悲惨なのは、持ち家のない者。全ての賃貸住宅は、アース・コーポレーションの所有物で、住まいを借りる事すら出来ない。
 ホームレスとしてたくましく生きていく元気があればいいが、病を得た者や身体の自由が利かない者は―――
 
 「死」を選ぶしかない。
 
 一面での格差は解消されたように見えるが、別の一面では、さらに大きな格差が生まれていた。
 世界全体の貧困層の割合が大幅に減ったのも事実だが、もっと身近なところで、とんでもなく深い溝が、確かに存在していた。
 
 だが、人々はそれを口にしない。
 気付いていないはずは無い。誰だって、薄々は分かっている。
 しかし、それを指摘すれば、会社を批判した事につながり、結局、身を滅ぼすのは「自分」なのだ。
 そんな少数派の「負け犬」に目を向けるよりも、自分の保身、さらには、「出世」に力を注いだ方がよほど建設的だ。
 ソウも、噂では聞いたことがあるが、アイヒベルガーCEOは、昔は身寄りのない孤児に近い存在だったらしい。それが、世界を実質独裁支配しているのだから、究極の「下剋上」を果たした訳だ。
 だから、「コネクション」とか「家柄」とか、そういう根拠の無い価値を完全に排した人事に徹底していて、完全な「実力主義」を唱えている。甘えは許されないが、自分の力で業績を上げ、「レース」に勝てば、どこまででも上を目指せる。――そういう社会なのだ。
 
 ―――俺は、その点、「勝ち組」ではないな。
 
 ソウは、アパートのエレベーターを上がり、上着のポケットから社員証を出すと、ドアの横の装置にかざした。社員証が「自宅の鍵」の役目も果たすのだ。
 玄関を入ると、殺風景な部屋の隅々まで一望できる。――それほどまでに、狭いアパートの一室。
 それが、ソウに与えられた「自由」だ。
 ……これでも、「ガニメデ」の他の連中に比べれば、かなりマシな方だ。
 
 2000年代末期から、NASAだったかロシアの宇宙局だったか知らないが、火星への移住計画やら木星の4つの衛星、いわゆる「ガリレオ衛星」の開発やらが進められていた。
 
 火星の事はよく知らないが、ニュースで聞くと、もう一億人単位の移住が完了していて、アース・コーポレーションが「マーズ開発」という子会社を作って、ほぼ独立採算でやっているらしい。
 
 一方、木星の方は、ここ「ガニメデ」で、放射能を出さない新たな核燃料「G-883」が発見されたため、ガニメデの鉱山の開発が特に進められた。
 現在、8つの鉱山を中心に、居住用コロニーが14、農業プラントが6つ、工業プラントが3つ、それに行政機能を集めた「第1コロニー」の、計24のコロニーができている。
 ここ「第3コロニー」は、最も古いプラントのひとつで、居住用プラントに当たる。
 ガニメデで最初に開発された鉱山「ドリーム」に最も近く、鉱山作業員が多く住んでいる。――というより、ガニメデコロニー群自体が巨大な鉱山町なのだから、鉱山関係者がほとんどで当たり前なのだ。
 
 ソウ・ナカムラも、ドリーム鉱山の現場主任として働いている。
 ――「主任」と付けば聞こえはいいが、採掘作業の効率化がまだ進んでおらず、未だ手作業の人海戦術で掘削を進めている部分が多いので、技術職が少ない。たまたま、大型自動車の免許を持っていたソウが、「主任」という名のダンプカー運転手をしている、それだけのことだ。
 
 ソウは部屋に上がると、まず冷蔵庫を開けてみた。
 ……正月休みだからあまり外出をしなくてもいいように、ある程度買いだめはしておいたつもりだが、ゴロゴロしながら酒を飲んでいる時間が多かったから、知らず知らずにいろいろつまんでいたらしい。大したものは残っていなかった。
 だからといって、ホームレスのために、わざわざ買い物に行ったり、デリバリーを頼むような事はしたくない。
 買い置きをしていた、ビスケットやらのスナック菓子、ボトル入りのスポーツドリンク、それと……
 冷蔵庫を見回すソウの目に、オレンジ色の球体が飛び込んだ。
 ――そういえば、地球に居た頃、「日本」に住んでいたから、正月といえば「餅」を食べたくて、マーケットに探しに行ったのだが、売っておらず、では、と「みかん」を探したがそれも見当たらず、諦めて「オレンジ」を買って帰ったのだ。
 ――フルーツがあると嬉しい――。
 あのホームレスの望み通りになるのは癪だが、仕方ない、持って行ってやろう。
 それだけを、無造作に袋に詰めると、ソウは公園へと戻った。


>> 次へ
PR

web拍手 by FC2


※ Comment
HN
TITLE
COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS


※ この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:



Powered by 忍者ブログ  Design by まめの
Copyright © [ Second Box ] All Rights Reserved.
http://secondbox.side-story.net/