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02.  ホームレス、起つ 


 その夜、ソウはまた公園に居た。
 ザッと見渡したが、人影は無い。
 ソウはポケットからタバコを取り出し、火を点けた。ゆっくりと煙を吸い込み、夜空を見上げる。――人口の星空が、だがこんな時には、小さな癒しに見えて、かえって気味悪い。

 タバコを1本吸い終わったが、やはり通行人どころか、守衛も来る様子が無い。
 ―――仕方ない。
 ソウはアパートへ帰ろうとした。

 すると。
「兄ちゃん、また来てるのか」
 植え込みの向こうから声がした。――あのホームレスの声だ。
 ソウは声の聞こえた植え込みをかき分けて、街路樹の陰へと入った。――そこで、あのホームレスは寝ていた。

 その姿を見てソウはホッとした。――だが、その心を悟られないよう、渋い顔を作って言った。
「……おまえに話がある」
「そんなところに立ってると目立つぜ?とりあえず、座りな」
 ホームレスに促されるまま、ソウは芝生の上に腰を下ろした。
「………で、話って何?」
「あのな……」
 ソウは呼吸をひとつ大きくして、ホームレスに向き合った。深刻な話をする姿勢を見せたのだが、ホームレスは気にする様子もなく、自分の手を枕にして、仰向けに寝転がっていた。
 仕方ないので、ソウは口を開いた。
「………明日の夜、『一斉清掃』がある」
「ふぅん――」
 ――ホームレスのあまりに素気ない反応に、ソウは逆に驚いた。こいつ、ホームレスのくせに、「一斉清掃」の意味を知らないのか――!?
「あのな、『一斉清掃』とは……」
「ホームレスの『皆殺し』だろ?」
 ――知ってるじゃないか。
 ホームレスが、何事もないかのような淡々とした口調を続けるので、ソウは苛立ってきた。
「このままでは、明日、みんな殺されるんだ。―――いいか、仲間に伝えて、逃げろ」
「逃げるって、どこに?」
 ホームレスは、眠そうな目をソウに向けた。
 ――だが、その言葉は投げやりなようでいて、真実を射抜いていた。コロニーの外は、マイナス160℃の極寒地獄。――逃げる場所など、どこにも無い。
 ソウは、沈黙するしか無かった。

 しばらくの沈黙の後、口を開いたのはソウの方だった。
 「――おまえ、何で、ホームレスなんかになったんだ?見た感じ、入社試験受ければ、十分契約はもらえるだろうに。
 ……それとも、『解雇』されたのか?」
「いや、解雇された訳じゃない。――初めっからホームレスさ」
「なんで……」
 ホームレスは面倒臭そうにソウに顔を向け、答えた。

 「俺の自由を金で買われるのが許せなかったのさ」

 ―――この男も、ソウと同じ事に気付いていたらしい。
 現在のアース・コーポレーションのやり方は、職業選択の「自由」、住居選択の「自由」、商品の選択肢、その他全ての選択の「自由」を奪っている。
 就職先は、「アース・コーポレーション」しか許されない。自分の住まいが無ければ、住宅は全て「社宅」だ。買う商品全てに「アース・コーポレーション」のロゴが付き、教科書ですら、「アース・コーポレーション 出版部」で印刷されたものが使われている。
 全てが、同じもの。全てが、同じ価値観。――「落ちこぼれ」は許されない。
 それがどうしても受け入れられないのならば、……落ちるところまで落ちるしかない。

 「……地球に居ると、ここよりも、もっと『一斉清掃』がひどくてな。臨時雇用に紛れて逃げて来た」
「しかし、よく、こんなところでやっていけるな」
「何とかなるモンさ」
「守衛に見つからなかったのか?」
「何回か見つかったさ。――その度に、コロニーの外に放り出された」
「えっ……!」
 ――マイナス160℃の世界をどうやって生き抜いて……?
 ソウの思考を察したように、ホームレスはニッとした。
「人間、そんなに簡単には死なないモンだぜ?
 ……とにかく、外気を吸わないようにして、鉱山まで走るんだ。マイナス160℃の酸素100%の空気をまともに吸えば、さすがに死ぬだろうからな。――んで、あとは鉱員の中に潜り込んじまえば、シャトルに便乗して帰って来れる」
 ……なんというタフなヤツなんだ。
「そこまでするのなら、鉱山で働いたら?」
「嫌だ。鉱山は嫌だ」
「何で?」
「あんたら、気付いてないのか?……鉱山入口のあの扉」
 ――言われてみれば、鉱山口のすぐ中に、核シェルター並みのいかつい扉が取り付けられている。「防災用の扉」だと聞いていたが……

 「あれ、鉱山で事故があった時、中に人が居ようが居まいが、閉めるんだぜ」

 ――鉱山事故。
 ガニメデの地盤は、凍りついているため固いように思えるが、掘り進めると、シャーベット状の層があったり、かなり軟弱なのだ。だから、落盤事故は頻繁に起きている。そんな危険な職場なのだ。
 だが、鉱山事故はそれだけではない。
 鉱脈地図が確立されていないため、掘り進めるうち、「パンドラの箱」と呼ばれる、有毒なガスや液体金属の層に行き当たる可能性も大いにある。
 また、ガニメデの鉱山では主に「G-883」を採掘しているのだが、ガニメデ鉱山で使われている重機の燃料は、「G-883」ではなく、もっと安価な「ウラン」や「プルトニウム」だ。ガニメデの気温が超低温なため、液体油脂燃料が凍ってしまい使えないから「核」を利用するのだが、それがもし事故を起こしたら……。――「パンドラの箱」を開けるより、その可能性の方が、遥かに高い。

 そうなった場合……
 あの扉を閉めるのだろう。

 「で、後で爆破でもして、穴を埋めてしまえば、それが一番手っ取り早い処理方法だからな」
「…………」
「つまり、アース・コーポレーションにとって、社員なんて使い捨ての道具に過ぎないのさ。
 ……そんな信用ならないヤツの言う事を聞いて、訳の分らない死に方をするくらいなら、自分の力で生きて、野たれ死んだほうがマシさ」

 ――人によって、考え方はいろいろだろう。
 ソウをはじめ、正規、非正規問わず、アース・コーポレーションで働いている人々は、このホームレスのような価値観を見出せなかった。与えられたレールの上を行き、その延長線上で死ぬ。
 しかし、この男は、そのレールに乗る事を拒否した。
 潔いというか、ある意味、「馬鹿」というか……

 だが、「秩序ある社会」にとって、こういう人間の存在が、最も脅威になりえるのかもしれない。

 「―――それにしても、あんた、なんで俺に『一斉清掃』の事を教えてくれたんだ?」
「……えっ…?」
 ――よく考えてみれば、なぜだろう。食い物をせがんできた、鬱陶しいだけのホームレスなのに……。
「ま、まぁ、……『袖擦り合う多生の縁』というか……。さすがに、殺されるのを黙って見てるのは、ちょっと……、と思ってな」
「ふぅん……。――だけど、あんたのおかげで、『タイミング』が分かったかもしれない」
「……は?」
 ――何だ?タイミングって?
「いつまでも、こんな事をしてても仕方ないとは思ってたんだ。だから、少しずつだが、準備は進めていた」
「………?」
「今が、その時期かもな」
 意味の分からない事を呟くと、ホームレスはガバッと起き上った。あまりに急な動きだったので、ソウはビクッとのけぞった。

 「明日の夜、きっと、『中継』がある」
「『中継』、って……?」
「『一斉清掃』の中継だよ」

 ……地球に居た頃から、噂には聞いたことがある。
 ホームレス狩りの映像を、どこかの放送局が生放送で流しているらしい、と……。
 ソウは見た事は無いが、そんな悪趣味なモノ、見たいとも思わない。

 「大昔、『サーカス』ってどんなものだったか、知ってるか?」
 ――また、突拍子もなく話題が変わり、ソウは呆気にとられてホームレスの顔を見るしかなかった。……そのグレーの瞳は、なぜか、夏休みが待ち遠しくて仕方の無い子供のように、キラキラと輝いていた。
「人と人との『殺し合い』だったんだよ」
「…………」
「なぜ、そんなモノを見せ物にするのか。――それが、人々にとっての『娯楽』だったからだ」
 ソウは、どう反応していいのかわからず、ただ、ポカンとホームレスの横顔を眺めた。
「人間ってのは、表面ではどんなに取り繕ってても、内面はとんでもなく残酷なもので、自分よりも不幸だったり、酷い目に遭っている『他人』を見ると、それがこの上ない『喜び』だったりする。
 自分が、たとえ酷い状況に置かれていても、もっと酷い立場の人間がいれば、自分が優位に立っているような気分になる。そういうモンさ」
 ――つまり―――。
「俺たち、ホームレスが殺されるのを見せることで、アース・コーポレーションの連中は、従業員の優越感を煽る。――ああはなりたくない、と思わせる。そういう作戦さ。
 だが―――」
 ホームレスはニッとした。
「明日は、もっと面白いモノを見せてやるよ。楽しみにしていてくれ」
 そう言い、ホームレスは立ち上がった。――ちょうど、街路灯の明かりがスポットライトのように彼を照らしていて、下から見上げるソウには、それがとてつもなく大きな存在に見えた。
 ホームレスは、ソウを見下ろし、手を差し出した。
「うまくいったら、またどこかで会えるかもしれない。うまくいかなかったら、――これで最後だ」
 ソウは、ホームレスの勢いに呑まれて、半ば呆然としながら、手を握り返した。
「じゃあな、ソウ」
 ホームレスは手を引っ込め、ポケットに突っ込んで歩き出した。
 その後ろ姿に、ソウは声を掛けずにいられなかった。
「おい!――何をする気だ?」
 すると、ホームレスは足を止め、振り返った。

 「独立戦争だよ」


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