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 ブライアンは、街頭の無料端末から、インターネットの掲示板にアクセスしていた。
 ――寒い。身体じゅうが凍えている。キーボードを叩く指も、震えておぼつかない。
 
 ガニメデ暴動の動画を流して以降、明らかに取り締まりがキツくなった。ネットカフェにも捜査の手が入り、居られる場所を失った。
 商品券を使う事もできなくなり、買い物もできない。――アース・コーポレーションが、突然、商品券のデザインを変更したのだ。旧デザインは一斉に使えなくなり、会社側の窓口で新デザインに変更してもらう必要がある。……ブライアンがその窓口に行く訳にはいかない。大量の商品券は、紙屑になった。
 
 飲まず食わずで、極寒の街角に潜む。――もう限界だ。
 ブライアンは、掲示板に遺言を残し、死のうと思った。……誰かがこの遺言を見て、アース・コーポレーションのやり方を、ガニメデ独立運動の首謀者の汚さを、分かってくれれば、それでいい。
 
 書き込みをしていると、悔しさで涙が出て来た。……なんで、僕が死ななきゃならない?僕は、僕の家族は、何が間違っていた?――でも、もう、どうでもいい。
 
 「さよなら」――最後の一文を入れ、Enterキーを押す。同時に、掲示板にログがアップロードされた。
 それを確認して、ブライアンはその場を離れようとした。
 
 ――端末を切る直前、掲示板が更新されたのに気付いて、目を戻した。
 ブライアンのコメントに対する書き込みだった。
 
 > 死ぬのはまだ早い。あなたは英雄だ。
 > 生きて、アース・コーポレーションに復讐すべき
 > だけど、生きていけないから死ぬのを選ぶんだろ?無責任な事を言うな
 > 綺麗ごとを言うなクズが
 > 明日の夜、ガニメデ行きの難民船が出る。それでガニメデに亡命すべし
 
 ……無責任なのはおまえだろう、と思える書き込みの中に、具体的な一文を見付け、ブライアンはハッとした。
 
 > その難民船はどこから出るの?
 
 自分だとバレないよう、アカウントを変えて書き込みをしてみる。
 すると、すぐに返答が返って来た。
 
 > レマン湖のローザンヌ側の岸から、水上宇宙艇が出る。
 
 ――あまりにも具体的な書き方に、ブライアンは罠ではないかと疑った。この掲示板を見ている他の人も、同じ事を思ったらしい。
 
 > おまえ、アース・コーポレーションのスパイだろ
 > 英雄をおびき出す作戦か?
 
 だが、そのコメント主は、冷静にこう答えた。
 
 > 私は、その難民船のオーナー。私も亡命する。
   こんな世界、もう、こりごりだ。
 
 ……どんな人物だかはよく分からないが、行ってみる価値はあるかもしれない。第一、掴まって殺されるとしたところで、今から死のうと思っていた身だ。何も惜しくない。
 賭けてみよう。ブライアンは端末のログを消去し、その場を離れた。
 
 
 
 翌日の夜。
 ブライアンはおぼつかない足取りでレマン湖の畔を歩いていた。
 寒さも空腹も、限界をとっくに過ぎ、今、こうして動いているのが不思議なくらいだ。ジュネーヴからローザンヌまで、丸1日かけて歩いて来たから、足は棒になり、感覚も無い。
 何人かの通行人とすれ違ったが、みすぼらしい身なりの子供になど、誰も構おうとはしなかった。――守衛に見付からなかったのだけは、幸運というべきか。
 
 堤防を入り、小さな砂浜のようになっている場所に出た。――街の明かりも届かないその場所は、闇に包まれていて、1メートル先もよく見えない。
 ……しかし、少し慣れれば、星明かりだけでも周囲の様子がうっすらと分かるようになってきた。
 だが、見えたところで、何も変わらない。――誰も居ない事が分かっただけだ。暗い水面には、船影も無い。
 
 ……やはり、騙されたようだ。
 ブライアンは疲れ切って、その場に倒れ込んだ。――このまま朝を迎えれば、多分、僕は死んでいるだろう。それでいい。
 ブライアンは目を閉じた。
 ――しかし、なかなか意識が落ちてくれない。氷のように冷え切った砂の感触が、不快だからだろうか?
 しばらくそうしていたが、やがて、別のものに意識が向いているのに気が付いた。
 
 ………音。
 
 静かな波音とは別の、規則的な水音が、微かにだが聞こえる。――よく聞けば、オールを漕ぐような、何かが軋む音も。
 ブライアンは顔を上げた。
 ――漆黒の水面に、懐中電灯ほどの、頼り無い明かりが見えた。……ふたつ。
 ひとつは、ゆっくりと揺れながら、沖へ向かって移動している。そして、もうひとつは、沖から合図を送るように小さく動いている。
 ………もしかして……!
 
 ブライアンは重い身体を引きずるように起き上がり、その光へ向かって歩いて行った。
 ――すると、水の上に、ぼうっと何かのシルエットが見えた。
 
 ―――水上宇宙艇。
 
 特殊な「脚」を持つ、ずんぐりとした機体が、黒い水面に浮かんでいる。その手前を、波に揺られて、手漕ぎボートがそれに向かって進む。
 ――あった!!
 
 ブライアンは、湖に向かって歩き出した。ブーツが水を蹴り、冷たい飛沫が脚に掛かるが、気にならない。ジャブジャブと水中を歩き、沖へと向かう。――目標の水上宇宙艇しか、目に入らなかった。
 
 だが、その歩みは
「ちょ、……ちょっと待ちなさい!」
という、野太い声とゴツい手に止められた。強く引っ張られて岸へ戻され、ようやく、その手の主を見た。
 ――あれ?さっきは男の声だったのに、この人、女の人……?
 
 「もう、坊やったら、無茶するんじゃないわよ。――あなたも、『亡命』したいの?」
 ……明らかに、その女の人が、野太い声の主だった。――ゲイかニューハーフだか知らないが、「女装の男性」である事には間違いない。
 普段のブライアンなら「気持ち悪い」と手を振りほどくところだが、今は、そんな元気も無かった。コクリとうなずいて、その場へ座り込んだ。
「――あら、こんなに身体が冷えて……。大変だったわね」
 そう言って、その「女装の男性」は、着ていた毛皮のコートをブライアンの肩に掛けた。
「今、ボートで宇宙艇まで運んでくれてるところなの。ちょっと待ってれば、迎えが来るわ。一緒に乗って行きましょ?」
 
 その「男」の顔を眺めているのもどうかと思ったので、ブライアンは、沖に目をやった。――ボートは、目的地に客を送り届けたのだろう、折り返してこちらに向かっているのが分かった。それを見て、その「男」はバッグから懐中電灯を取り出し、ボートに向けて合図を送る。今度は、水上艇の明かりが消え、岸からの明かりの合図を頼りに、ボートは動く。
 懐中電灯を持った手を頭の上で動かしながら、その「男」はブライアンに話し掛けた。
「……坊や、お父さんとかお母さんは居ないの?」
「死んだ」
「―――そう。悪い事聞いちゃったわね。……じゃあ、ひとりでここまで?」
「うん」
「……どこで、この船が出るのを知ったの?」
 何気に、核心を突く質問を投げて来た。だが、今のブライアンには、隠しておく必要も無い。
「ネットの掲示」
「……そう」
 分かったのか分からなかったのか、その「男」はそれから黙って、ボートに合図を送る作業に集中しだした。
 
 間もなく、ボートは岸に着いた。すぐ脇に設けられた、仮設の桟橋からボートに乗り込み、波に揺られる。
 ――この感じ、思い出した。……父さんと、地球に戻ってすぐ、こうして、レマン湖でボートに乗ったっけ。
 あの時は、透き通った水を通して、魚が泳いでいるのが見えた。ガニメデ生まれのブライアンにとって、生きている魚を目にするのは、初めての経験だった。――ガニメデには、水族館も動物園も無いから。
 つい、この前の事なのに、何だか、すごく昔の事のような気がする。
 
 ――そんなつもりは全く無かったが、ブライアンの目から、自然と涙が溢れ出ていた。気付くと、声も抑えられない。膝を抱えて、嗚咽を漏らしながら泣く事しかできなかった。
 そんなブライアンを見て、隣に腰掛けるその「男」は、優しく肩を抱いてくれた。――それが、どうしようもなく温かくて、さらに涙がこぼれた。
 
 ボートは静かに水上艇に到着した。機上からハシゴが降りていて、それを登って中に入る。
 ――遠くから見た時は、そんなに大きさを感じなかったが、中は、相当な広さがあった。ブライアンと「男」の他にも、数十人の「難民」が、狭い座席に腰を下ろしていた。
 空いている席は、一番前の2つしか無かった。ブライアンは、その「男」と、隣同士で座る事になった。
 席に落ち着くと、「男」はブランドもののボストンバッグから、小型のポットを出した。付属のカップにコーヒーを注いで、ブライアンに差し出す。
 黙ってそれを受け取り、手のひらでカップを包む。――湯気が、ブライアンの冷たい頬を優しく撫でる。カップからじんわりと、温かさが両手に伝わってきた。
 コーヒーはあまり好きでは無かったが、この時ばかりは一気に飲み干した。――胃のあたりに、痛いくらいに熱が沁みわたる。
「美味しい?」
 普段なら、絶対に素直な返答などしないブライアンだが、素直に肯かざるをえなかった。
 
 ガニメデに居た頃は、ひたすら「優等生」を演じてきた。
 ――だが、同時に、自分より優れた人間が居る事も分かっていた。……例えば、同級生のレイ・マグアドル。あいつは、何もしなくても、全ての面において、ブライアンより勝っていた。――レイが居たら、1番になれない。だから、レイをいじめて、学校に来られなくした。
 そうやって、他をけなして、自分が優位に立っているように見せかけていた。――友達からもらったプレゼントにも、母さんが作ってくれた料理にも、素直に「ありがとう」なんて言った事が無かった。いつも、「こんな安物、買おうと思えばいつだって買えるんだから、敢えてプレゼントにする必要ないよ」だとか、「油っぽすぎて、僕の口には合わないから、他のものが食べたい」だとか、憎まれ口を叩いていた。――父さんの立場のおかげで、僕は、何とか仲間外れにもされず、「優等生」の座に居られたに過ぎなかった。……少し大きくなってそれに気付いた時、父さんさえも憎らしくなった。
 だが、ガニメデを追放され、父さんが職を失い、――僕は、父さんが居なければ何も出来ない無為な存在だと感じた。だから、父さんに捨てられないように、頑張って「いい子」を演じた。
 でも、父さんは殺された。――「父さんが居なければ何も出来ない存在」、そこから抜け出したくて、父さんが為し得なかった事をしようとした。……そして、それは成功した。
 僕は、父さんに勝った。――でも、今は、何も残っていない。
 「オカマ」に同情される程度の、社会の最底辺の人間だ。
 
 ……でも、今は、その「同情」が、唯一の救いだ。
 
 「――あなた、どうしてガニメデに行こうと思ったの?」
 また、「男」が話し掛けてきた。
「地球に居場所が無くなったから」
「……アタシと同じね」
 「男」はそう言って、もうひとつのカップにコーヒーを注いだ。
「アタシ、こんなんでしょ?――だから、まともに仕事になんて就けなくて。しばらくは、裏でコソコソやってたんだけどね、だんだん、それも苦しくなってきちゃって」
 ブライアンと同じように、一気にコーヒーを飲み干すと、バッグからポーチを出して、化粧直しを始めた。……よく顔を見ると、相当ヒドい。頬骨の張った色黒の肌に、色の合わないファンデーションを塗りたくり、ピンクのラメ入りの口紅が浮いている。――香水の臭いだけは、何とか許せるが、それさえもヒゲ臭く感じる。
「アタシ、マーガレットっていうの。……もちろん源氏名だけどね。――あなたは?」
「―――ブライアン」
 一瞬、偽名を名乗ろうか迷ったが、ガニメデに着いてしまえば、身元がバレるのは目に見えている。ここで誤魔化しても全く意味が無い。
「……ブライアンちゃん、じゃあ、ガニメデまでの旅だけど、仲良くヨロシクねっ!」
 マーガレットはそう言って、ウインクして見せた。
 
 それから間もなく、水上宇宙艇は動き出した。水面を滑り、助走をつけると、一気に空へ駆け上がる。……このまま、宇宙まで飛び抜けるのだろう。
「……アタシ、宇宙艇って初めてなの。ちょっとドキドキするわ」
 身体じゅうにかかる重力と、急激な気圧差による耳鳴りがひどい。……ガニメデから地球に来た時の大型旅客船とは違い、重力をコントロールする装置が無いからだ。隣でマーガレットが何やら呻いていたが、それを気にする余裕も無い。――例えようもない気分の悪さだ。
 
 いつの間にか、ブライアンは意識を失っていた。


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