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36.  前夜
 
 
 ディケイルはドミニオンの艦橋に居た。
 今回は、既に宇宙空間のただ中だ。妙な姿勢で座っていると、床が発している低重力磁場の有効範囲を脱して、浮き上がりそうになる。
 宇宙船も、ここ100年ほどの間に大きな進化を遂げた。昔は、完全な無重力のただの入れ物だったに過ぎないが、現在では、「上下」という概念が取り入れられるまでになった。ただし、その重力は、地球の平均を1Gとすれば、0.1G以下という、月面よりも軽い微々たるものだ。なので、飛び上がれば簡単に天井にまで手が届いてしまう。まともに座るのが嫌いでいながら、シートベルトも面倒がってやりたがらないディケイルにとっては、些か腰が落ち着かない。
 だが、目の前のテーブルに置かれた紙袋は、きちんとその場に居座っている。それに何とも言えない不条理を感じるのは、俺だけだろうか?
 
 この白い紙袋は、レイが持ってきた。――病院で渡されたのだろう、出発直前、ドミニオンにやって来た。
「――勝手に病院を抜け出したって聞きましたけど、ちゃんと手続きくらいは自分でしてください。今は参謀長も居ないんですから」
 そう言って、錠剤のシートがいくつも入ったこの紙袋を渡してきた。
「痛み止めと胃薬と、それと肝臓の薬だそうです。――ちゃんと飲んでくださいよ」
 それから、レイはディケイルの顔を見た。
「……僕も、連れて行ってもらえませんか?」
 それには、ディケイルも驚いた。
「――バカ言え、まだおまえ、子供だぞ?おまえが行くようなところじゃない」
「子供とか年齢とか、そんな事、どうでもいいでしょう?僕は元帥の役に立てます。――この前の件で、それは証明できたはずです」
 ……ハイドロ・テラーの件だろう。
 確かに、あの時は正直、レイが居なかったら、どんな展開になっていたのか想像できない。その時の状況で対応しようとはしていたが、ディケイルのあの時の体調で被害を最小に抑えて解決できたのかと考えると、その保証は無かった。だからといって……。
「――なぜ、そんなに急ぐ?大人になるのが待てないのか?」
 レイも、そんな年頃なのだろうか?しかし、「思春期」と呼ぶには、少し早過ぎる気もする。
「いえ――」
 レイは目を伏せた。
「……ただ、自分がなぜ生まれて来たかを考えた時、こんなに普通に暮らしていちゃいけないんじゃないか、そう考えてしまうんです」
 ――ディケイルはハッとした。「普通でない」人間として生まれて来た事に対する葛藤。
 ディケイルにも心当たりがあった。そう、レイくらいの年頃の子供は、時として「生」の理由について悩む事がある。……その「答え」が見付からなかった時の絶望感……。脳裏を思い出したくない感情がよぎり、ディケイルは目を閉じた。
「あの……、――すいません。そんな、困らせるつもりで言ったんじゃ……」
 レイは慌てたように言った。目を開くと、レイの真っ直ぐな目がディケイルを見上げていた。
「分かってます、無茶なお願いだって事は。――すいませんでした」
 レイはペコリと頭を下げて、帰ろうとした。その小さな背中に、ディケイルは言った。
「レイ。――おまえの役割は、俺を信じる事だ。
 俺を信じて待て。……そして、マタルやカティを守ってやれ」
 ――こんな偉そうな事が言える立場では全く無いのは分かっている。だが、そんな薄っぺらい言い訳をしてレイの気持ちを誤魔化さなければ、自分の心が折れそうだった。
 
 ―――俺は一体、何のためにここに居る?
 
 「――艦長!先行して偵察をしていたライトフライヤーから通信が入りました。『敵』は、アス・トンネルの前方3000Mm(メガ・メートル)の地点に至った模様です。火星の公転軌道に達したと思われます」
 前方でモニターを眺めていた通信士が言った。
「そうか……」
 ――そうだ。今はそんな余計な事を思い悩んでいる暇など無い。目の前の「障害」を取り除く、ただそれだけだ。
「――総員に告ぐ。あと8時間もすれば、敵は到着する。……迎撃体制を整えておいてくれ」
 
 
 
 3月28日。
 リンは戦艦ヴァーチャーの艦橋に居た。
 今回の遠征には、ヴァーチャー、プリンシパリティ、アンゲロイの3隻の宇宙戦艦に、ミサイル艦、魚雷艇、装甲艦など、計8隻が参加している。ドミニオン相手には、ライトフライヤーなど通用しないので、宇宙空母は同行させていない。
 
 アース・コーポレーションの所有する軍用艦艇のそのほとんどには、「天使」の名前が付けられている。リンはキリスト教徒でも無いし、そんなものには興味は無い。だが。特に戦艦の命名には、ミカエルのこだわりがあるようだったので、一通りの情報だけは知っている。
 ――ミカエル。神に最も近い天使。……彼を護る、神聖なる使徒たち。
 ミカエルらしい。だが、事実なので、嫌味にも感じない。リンはそう思っている。
 
 リンが選んだこの3隻の戦艦は、月に駐留する宇宙艦隊の所有する艦艇の中でも、最も古い部類に入る。だから、比較的小型で、ライトフライヤー用の滑走路も付いていない。しかし、その分小回りが利き、巨体のドミニオン相手には相応しい、そう判断したのだ。
 
 ――正直、テオドアの電話がある前は、本気で全艦を出撃させようと思っていた。
 確実に勝つ。そのためには手段を選ばない。――それが、リンのやり方だった。
 
 アース・コーポレーションによる「統一」の前は、中国と呼ばれる国の、軍に所属していた。そこそこの幹部クラスにのし上がり、果ては総司令官も夢では無いと言われていた。
 特に、彼の地位を確固たるものにしたのは、地方の少数民族が起こした、政府に対する武力蜂起を鎮圧した事だ。ゲリラ戦法により手こずっていた政府軍だったが、リンが指揮を任されると、ゲリラ部隊の指揮官と思われたチャンとかいうヤツの住む村を焼き打ちしてやったのだ。――すると、さすがにゲリラのヤツらも恐れをなし、急速に大人しくなった。
 その後、中国政府がアース・コーポレーションに買収され、リンは警備部のエリート社員として雇用された。――そして、アース・コーポレーションに従わぬ者の抹殺、対立する組織の壊滅など、様々な場面でミカエルのために職務を果たしてきた。
 そんな中、あのゲリラの指揮官が部下として配属された時には驚いた。――リンにとってはどうでもいい事だったが、何となく目障りだったので、圧力をかけて辞めさせてやろうかと思っていたら、向こうから勝手に消えてくれた。
 ……ともあれ、そうやって、手を汚して来たからこそ、現在の地位がある。
 もう、「役員」の座は手の届く位置に見えている。ここで、もうひとつ、何か評価があれば……。
 
 テオドアは、ミカエルのご機嫌を取ってその周囲をチラチラと飛び回るハエのようなヤツで、鬱陶しくて目障りだった。だが、そいつが思いもかけず、いかにミカエルの評価を稼ぐか、その策を伝授してくれた。――分かったフリをして聞いていたが、これまでのリンには、思い付かない考えだった。……確かに、全力を以ってして、ガニメデの小うるさいヤブ蚊どもを退治しても、対外的には何の評価もされないに違いない。「余力を残しての勝利」。――この言葉を聞いて、リンは内心ではほくそ笑んだ。……そうだ。そうであってこそ、私の真の実力が発揮できる。
 ディケイル・ウェイニーとかいうヤツが居ない今、ガニメデを降伏させるのは、赤子の手をひねるよりも簡単だ。――いや、たとえあの男が居たとしても、この私と、閣下の作られた宇宙艦隊の相手としては、役者不足も甚だしい。さっさと終わらせ、地球へ凱旋をしよう。
 
 ガニメデから戻れば、確実に、リンのために役員の椅子が用意されているに違いない。
 リンはニヤリとした。
 ――とにかく、これからは、テオドアともう少し仲良くしておきべきなのかもしれない。
 
 「部長、先行している哨戒艦より報告です。ユナイテッド・トンネル内で、火星船籍の貨物船が事故を起こし、現在、通行ができなくなっている模様です。どうしますか?」
 リンは、報告をしてきた通信士に鋭い声を飛ばした。
「誰がユナイテッド・トンネルを通るなどと言った?
 最短でガニメデへ行く道は、アス・トンネルだ。このまま進め」
「しかし、このタイミングに事故だというのは、不自然というか……。罠の可能性は……?」
「――おまえ、いつから私に意見を言える身分になった?」
 リンに鋭い目で睨まれ、通信士は青い顔をして席へ戻って行った。
 
 ――どんな策を練ろうが、戦艦1隻で何が出来る?
 私の勝ちは決まっているのだ。
 そして、私の未来も、また……。


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