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 まず、階段までは早足で進む。意味も無く中腰になってしまうが、仕方無い。
 そして、3階へ続く階段。――ここまでは、綺麗に改装されている。階段を上った先の3階の廊下も、2階と同じような感じで、奥に伸びていた。
 ――問題は、そこから上。
 レイは、3階には来た事が無かった。自分の部屋が2階だから、他の人の居住スペースしか無い3階には、何の用も無い。だから、4階に続く階段を見るのは、これが初めてだった。
 ――ここからは、切り取ったように整備されていない区画になっていた。入口にテーブルやら椅子やらが積まれ、『立入禁止』と書かれたプレートが、チェーンでぶら下がっている。
「……まずは通路を作らないと、だな」
 ボビーが通せんぼをしている椅子に手を掛けた。ヘタに動かせば崩れ落ちて、大変な事態になりはしないか――、レイはヒヤヒヤしたが、案外器用な手付きで、ボビーは人ひとりがやっと通れるほどの通路を空けた。
 ボビーを先頭に、ゆっくりと階段に足を踏み入れる。――モルタル張りの階下と違い、ここは、コンクリートの打ちっ放しになっている。ひんやりとした冷気が、下から這い上がって来るようだった。
 ……いや、冷気は気のせいでは無い。空調が届いていないので、どうしても気温は下がる。そして、長い期間、人を受け入れた事のない空気はどんよりと澱み、湿気を感じさせた。どことなく、カビ臭い気がする。
「――なぁ、どのへんから声が聞こえるのか、分かるか?」
 ボビーに聞かれて、レイは意識を集中してみた。――その時。
 
 前方を、誰かが横切った気がした。
「………え?」
 思わず動揺を声に出してしまった。――誰かが居るワケ、無いじゃないか。
「ど、どした?」
 やはり、威勢が良い事は言っていても、ボビーも怖いらしい。レイの声にビクッと足を止めた。
「――あ、いや、何でもない」
 レイはごまかす事にした。……誰かが居た気がするなんて言って、これ以上怖がらせたところで、何にもならない。
 
 ――すると、もう少し上の階から、また声が聞こえた。――部屋に居た時よりも、随分とはっきり聞こえる。でも、やはり、笑っているのか泣いているのかは分からない。
 その声に導かれるように、レイは階段を進んだ。今度は、ボビーが後に続く。
 5階、6階……。
 懐中電灯の明かりに切り取られた空間しか見えないが、その中でも、この建物の荒廃ぶりが窺われた。薄汚れた灰色の壁や床に、剥がれ落ちた天井の残骸だろうか、コンクリート片が散らばっている。そして、所々、ここがかつて人が住んでいた場所である事の証を示すように、雑誌の切れ端や錆びた空き缶などが転がっていた。それらにつまずかないように気を付けながら、ゆっくりと階段を上って行く。
「――なぁ、まだなのか?その、声がするってのは」
「うん……」
 意識してはいるが、その声がどこから聞こえているのか、実はよく分からない。建物のコンクリートに反響して、あちこちに響いているような感じもするし、実は、すぐ耳元で囁かれているような、そんな気がする時もある。
 踊り場の壁を、懐中電灯が照らした。――7階とある。
 すると、その明かりの下を、また、チラリと白い影が横切った。――今度は、先程よりもはっきり見えた気がした。……白いフワリとした服を着た、女の子だ。
 ――しかし、ここは、鉱山労働者用の共同住宅だった場所だ。当然、単身者専用だし、女性、しかも、少女と呼ばれる年代層の人が居るような場所では無い。じゃあ、何で……?
「………や、やっぱ、帰らない?」
 急にボビーが弱音を吐き出した。レイの上着の裾を引っ張りながら、情けない目でレイを見上げている。
「やっぱ、怖ぇよ。休みの日の昼間、ケビンたちも誘って、みんなで来ようよ。なぁ?」
 当然の意見だ。そもそも、「お告げを聞きに行くべき」などと言い出した、あの時のボビーが間違っている。こんな場所に、精霊など居ようハズが無いではないか。
 しかし、なぜかレイは、足を止める事ができなかった。止めてはいけない気がした。
「――僕は行くよ。先に戻ってて」
 そう言って、階段のさらに上を目指す。すると、ボビーは泣きそうな顔をして、
「ひ、ひとりで戻れるワケないだろ!?」
と言い、レイの後を追い掛けて来た。
 
 ――8階。あと1階分、階段を上れば、最上階に着いてしまう。しかし、相変わらず、「声」の元はどの辺りなのか、見当も付かない。
 踊り場を回り込み、9階への入口を見上げた時、また、白い影が見えた。
 ――今度は、その場に立って、じっと、こちらを見ている様子だった。懐中電灯の明かりでは、ぼんやりとしか見えなかったが、恐らく、レイよりも少し年上くらいの少女。フワリとした白いワンピース――いや、ネグリジェだろうか――を着て、白いクマのぬいぐるみを抱えている。顔はよく見えないが、レースの付いた服の裾と、真っ白な素足が見えた。
 ……素足?こんなガラクタが転がってる場所を素足で歩くなんて、危ないじゃないか。
 レイは、いつの間にか、その少女を、実在しているかのように思い込んでいた。――それほどまでに、その少女から、生々しい「意識」を感じ取っていた。
 ……寂しい、悲しい、つらい、誰か、助けて………。
 あまりに悲痛な思いをまざまざと見せ付けられ、彼女を救えるのは、自分しか居ない、そう思った。レイは足を早めた。
「お、おい!待ってくれよ!」
 ボビーが慌ててレイを追う。
 
 9階。
 最上階に辿り着いた。いつの間にか、少女の姿は消えていた。
 ――しかし、階段はまだ続いている。
「……お、おい。おかしいぜ?この建物、9階建だったハズだよな?なのに、何で……!?」
 ボビーがレイの腕に抱きつきながら震える声で言ったが、レイはそんな事よりも、ある物の存在に目を奪われていた。
 9階から上へ続く階段を数段上ったところに、小さな白い影が落ちていた。ボビーを引きずるようにしてそこへ向かい、そっとそれを手に取ってみる。――それは、クマのぬいぐるみ。先程、少女が持っていたものと似ている。こんな薄汚れた空間に似つかわしくなく、まるで、今そこに置かれたかのように、ふわふわとした白いファーには、汚れひとつ無い。
「――ヤ、ヤバイぜ?や、やめようよ、な……」
 ボビーは必死だ。しかし、レイの視線は、さらに上を見ていた。
 踊り場には、先程の少女が立っていた。――今度は、なぜか顔まではっきり見える。……恐ろしく色白のその少女は、とても悲しい表情をしていた。そして、ゆっくりと口を動かす。
 ―――た、す、け、て―――。
 今度は、レイの耳に、はっきりと言葉が届いた。レイは、もう何も考えられなかった。その言葉に導かれるまま、階段を1段、また1段と進んでいく。とうとうボビーが泣きだしたが、それでも、ひとりで置いて行かれるよりはマシだと思うのか、レイの腕を離さなかった。
 踊り場に着くと、やはり、少女は居ない。その代わりに、レイの髪を風が揺らした。
 ――風?
 コロニー都市であるこの街には、気象というものは存在し得ない。雨も降らなければ、風も吹かない。吹く要素が無いのだ。
 それなのに、確かに、今レイは、はっきりと風を感じている。
 レイは振り向き、階段のさらに上を見た。
 ――そこは、屋上への入口のようだった。ガラス扉が開いて、風に揺れている。
「……な、なんだよ。屋上があったのか……」
 しゃくり上げるような声で、ボビーが呟いた。
 すると、一陣の強い風が吹き込み、レイは思わず目を閉じた。――そして、風が収まり、目を開くと、そこには……。
 
 白い紙が宙を舞っていた。何十枚という数では無い。何百枚、だろうか。無数の紙切れが、まるで意思を持つ生き物のように、縦横無尽にコンクリートの空間を飛び回っている。
 ――キレイ。レイはそう思った。
「……な、なんだよ、コレ。――手紙?」
 ボビーが、床に落ちた一枚を拾い上げ、懐中電灯を向けた。確かにそれは、粗末な便箋に鉛筆で何やら書かれた、手紙のようだった。――暗くて内容までは読めなかったが、なぜだか、レイにはとても優しいもののように感じられた。
 ―――か、れ、を、た、す、け、て―――。
 また声がして、レイは顔を上げた。すると、屋上への入口のところに、少女が居た。舞い散る便箋の中で、髪を揺らしながら、レイに悲しい目を向けている。――行かなきゃ。
 レイが歩を進めようとすると、
「ダ、駄目だって!!やめてくれよ、なぁ、頼むから!!」
 ボビーが必死の形相でレイの腕を掴む。それが痛かったので、レイはボビーに言った。
「邪魔しないでくれないか?」
 ――その時の僕は、一体どんな顔をしていたのだろう。ボビーはレイを見ると、ギョッとしたように大きく目を見開いて、ゆっくりと手を離した。
 レイは、顔を屋上に戻し、ゆっくりと階段を上って行った。


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