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45.  オルゴール
 
 
 2日後。レイは、教会に居た。
 今まで、レイにとって、宗教なんて縁遠いもので、教会に足を踏み入れた事は、これが初めてだった。
 色鮮やかなステンドグラスの壁の中央に、十字架に磔にされた、痩せた人物の像が掲げられている。これが、神様なのだろうか?それにしては、あまりに苦しそうで、見ていて痛々しい。人々は、なぜこんな絶望に満ちた姿に、祈りを捧げるのか……?
 しかし、それとは対照的に、その像の下に置かれている、美しい女性の像に、レイの心は奪われた。――ふくよかな白い腕に、赤ちゃんを抱いている母親の姿。
 レイは、両親の顔すら知らない。――しかし、この世に生を受けた時には、こんな風に、抱いてもらったのだろうか?そんな事を考えると、どうしようもなく切なくなった。
 僕は、なぜ、生まれて来たんだろう?
 
 なぜ、レイが教会などに来ているのかと言えば、この前見付けた、あのミイラの葬儀のためだ。
 ……廃墟の屋上に行くと、少女が、小屋の前に立っていた。呼び寄せられるように小屋を覗くと、あのミイラがあった。
 どうしていいのか分からず、呆然と立ち尽くしていたら、ブライアンが来た。ケビンも来た。
 その後、ちょっとした騒動になった。
 
 ケビンが監督官を呼びに行き、監督官がマックを呼び、マックがコロニー防衛隊を呼び……。
 コロニーの屋根が朝を告げる頃には、野次馬も含め、屋上は何十人もの人でごった返していた。夜も、こんな感じだったら、怖くなんて無かったのに……。
 それから、レイはボビーたちと一緒に事情聴取を受けた。
「――なんで、夜中にこんなところに来たの?」
 防衛隊の人に聞かれて、返答に困った。――ヘンな声がしたから、と正直に言ったところで、信用してもらえるハズが無い。ボビーをチラリと見てみたが、顔を伏せたままで、何も言おうとしなかった。すると、
「肝試しです」
と、ブライアンが答えた。
「どちらが上の階まで行けるか、ふたりずつでチーム分けして、勝負したんです」
「なるほどね……」
 防衛隊の人は肯いた。
「でも、これからは、こんな事、危ないから、やっちゃダメだよ」
 真面目そうなその人は、手帳にメモを取りながら言った。
 ――もちろん。もう二度と、こんな事などしない。
 
 しかし、本当に大変だったのはそれからだった。
 監督官とマックに4人とも呼び出され、しっかりと説教された。ケビンが極めて不服そうにレイを睨んでいるのが分かったが、顔を伏せて大人しく話を聞くしか無かった。
 保護者として、元帥まで呼び出されたのには、本当に申し訳なく思った。けれども、元帥は、何も言わなくても事情を察してくれたのか、レイの頭を掻き回すように撫でただけで、帰ってしまった。
 ――それから。
 罰として、訓練施設の回りを20周走らされた。ケビンには散々グチグチ言われたけれど、ブライアンは、何だか楽しそうだった。ボビーも、初めはしょげていた様子だったが、身体が温まってくると、すっかり元の様子に戻っていた。
「連帯責任って、楽しいモンだな!」
と、よく分からない感想まで言い出した。
 ――確かに、たまたま同室になっただけの4人のはずだが、何だが、連帯感というか、仲間意識が芽生えてきた気がする。不思議なものだ。
 
 それからというもの、ピタリと声がしなくなった。走り疲れてクタクタの身体を横たえると、すぐに睡眠に落ちた。……こんなに眠る事が気持ちいいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。いきなり「問題児」のレッテルは貼られてしまったようだが、それでも、得られたものの方が大きい気がした。
 
 ……聖母子像の前には、棺が置かれている。その脇の台に、白いクマのぬいぐるみと、古びたオルゴール。
 何となく、あの時の事を思い出した。
 ――今から思い返すと、不思議な事が多い。
 まず、呼び寄せられるように屋上に向かった件。ボビーが必死でレイを止めようとしているのは分かった。それなのに、なぜか、行かなければならない、と思った。
 それに、屋上への階段の踊り場で、ボビーの手を振り解いた時。――ボビーは、その時のレイの顔が、別人に見えたと言っていた。……もしかしたら、本当に誰かに取り憑かれていたのだろうか?
 それから、その直前、手紙が舞い散っていた、あの光景。
 ボビーは、あれはポルターガイストだと主張している。確かに、そう見えなくもない。吹くはずのない風が吹き、そこに存在するはずが無い手紙が宙を舞う。――後から聞いた話だが、あの手紙は、元々、物置小屋の中にあったようだ。同じような手紙が、小屋の中にも大量にあった。それは、ミイラの男性が、誰かに渡すために書いた手紙のようだった。文面の各所に「元気になって」とか、「会いたい」とか、そんな言葉が散らばっていた。――ラブレターのようだった。何通も何通も書いて、しかし、それを渡す事は叶わず、男性は亡くなってしまったのだろう。
 しかし、レイは、あの現象はポルターガイストなどでは無いと思っている。――密封された空間が開け放たれた時に起こる、気圧差。それによる風なのではないか。……しかし、それならばなぜ扉が開いたのかと言い返されれば、答えられない。……ポルターガイストという理由が最も説得力ある回答なような気がする。結局は、そうなのかもしれない。
 それと、目の前にある、あのクマのぬいぐるみと、オルゴール。
 レイが見たあの少女は幽霊だった。それは間違いないだろう。屋上には、あの小屋以外、身を隠せるような場所は存在しない。そして、小屋の中には、あのミイラしか居なかった。――そんな彼女が持っていたぬいぐるみが、実物となって、レイの前に現れた。
 さらには、ミイラを発見した時、オルゴールは確かに音を奏でていたが、後から見ると、中身はすっかり錆びついて、とても動くような代物では無かった。
 ……考えれば考えるほど、不思議で仕方がないが、それ以上に、レイには気になる事があった。
 
 それは、あのミイラと、少女の幽霊の関係。
 なぜか、レイは、あのミイラを怖いと思わなかった。ホッとした安堵感のようなものが、ミイラから伝わってくるのが分かった。
 検死があったから、発見してから2日後の今日が葬儀になったのだが、防衛隊の人の話では、あのミイラは20歳前後の男性で、死後10年近く経っている、という事だった。死因は、衰弱死。身元は分からず仕舞いだった。
 でも、少女の幽霊は、どう多く見積もっても15歳くらいだ。もし、あのミイラが書いた手紙の相手が、その少女だったとして……。
 ――まぁ、5歳差なら、恋愛対象としてはおかしくないかもしれないけど、それにしても……。
 
 レイはいろいろ推理してみた。そして、あるひとつのロマンスを導き出した。
 
 ――ミイラとなった少年と、幽霊となった少女は、生前、幼馴染みだった。けれども、少女が病気になってしまい、病院に入院してしまった。……だから、あの幽霊は、ネグリジェ姿だったんだと思う。
 少年は、毎日、少女の見舞いに行った。時には、クマのぬいぐるみなんかをプレゼントしたりもした。少年は、少女の事が好きだった。
 けれども、その恋が果たされる事は無かった。――なぜなら、身分違いの恋だったから。
 少女の幽霊は、真っ白な、高級そうなデザインのネグリジェを着ていたし、いかにも育ちの良さそうな顔立ちをしていた。レイははっきりと見ている。しかし、ミイラは、時間が経った事ももちろんあるだろうが、ボロボロの作業着姿で、手紙以外の身の回りの品や所持金は、一切見当たらなかった。
 少女の両親は、毎日訪れる貧乏な身分の少年を、そのうち疎ましく思うようになってきた。そこで、両親は少年に告げる。――もう、二度と来ないで欲しい。
 少年は、その言葉に従うしか無かった。初めから、叶う恋では無いと分かっていた。少年は身を引き、鉱山労働者となり、あの共同住宅へ入った。
 一方、少女は、少年が来なくなった事で落ち込んだ。そして、病状が悪化した。――やがて、失意のうちに、死んでしまった。
 しかし、少年は少女の死を知らない。一度は諦めたものの、お金が貯まったらもう一度会いに行こうと、一生懸命に働いた。5年間働いて、その小遣いで、彼女に会う時のプレゼントとして、オルゴールを買った。そして、彼女へのラブレターを書いた。……5年ぶりの彼女は今、どうしているのだろう?想う気持ちと、自分の事を覚えていなかったり、他に好きな人が出来ていたりしたらどうしようという不安とで、なかなか思うような手紙が書けない。書き直しているうちに、何百枚もの数になってしまった。
 それでも、何とか手紙を完成させ、少年は彼女の家に向かった。――そこで、彼女の「死」を、初めて知る。
 ……絶望した少年は、仕事への意欲も生きる意味も失い、共同住宅を出た。しかし、だからといって、行くところも無い。放浪する体力も尽きた少年は、やがて、共同住宅の屋上の物置小屋という、誰の目にも止まらない場所に行き着いた。――そこで、少女への想いと思い出に囲まれながら、弱り切った少年は、最期を迎えた。
 
 ――しかし、少女は少年に対して、強い想いを残して死んでいる。少年には分からなかったが、彼女は、ずっと、彼の傍で見守っていた。……しかし、自分の死に絶望し、少年は死んでしまった。その事を、少女の霊は非常に悲しんだ。けれども、空き家となり、廃墟になってしまった共同住宅の、しかも屋上の物置小屋なんかに居る彼の遺体を、誰も見付けてはくれない。少女の霊は心を痛めていた。
 すると、10年の時を経て、そこへ、士官学校の学生たちがやってきた。――そして、その中に、目に見えないモノが見えるっぽいヤツが居るじゃないか。そこで、少女の霊は、レイをおびき寄せて、少年を発見させようとした。
 一方で、死んで初めて、少女の霊がずっと近くで見守っていてくれた事を知った少年は、彼女にこのような心労を強いていた事を悔やんだ。そして、早く誰かに発見されて、彼女を解放してあげようと、レイに取り憑いた。――もし、あの時、レイが何者かに取り憑かれていたとすれば、少年のほうじゃないか、と、レイは思う。何となく、だが、そんな気がした。
 
 ――ただのレイの想像に過ぎないが、ロマンチック過ぎるだろうか?しかし、クマのぬいぐるみの優しい表情と、オルゴールに取り付けられたメリーゴーランドの中で楽しそうに微笑む2体の人形を見ると、そのくらいのドラマがあってもいいんじゃないか、と思えてくる。
 
 その時。
 棺の脇に、人影が見えた。――聖書を読み上げている司祭のオジサンじゃない。……あの少女だ。
 少女は、ネグリジェを着てはいなかった。同じように純白だが、美しいドレスを身にまとっている。――少し、大人びて見えた。
 すると、棺の陰から、もうひとりの人物が現れた。――見覚えは無いが、ミイラの少年だと、レイには分かった。死んだ時のままだろうか。粗末な作業着姿だ。
 しかし、そんな事を気にする様子も無く、少女は少年に、白い手袋に包まれた手を差し出した。少年は、少し躊躇したようだが、そっと、その手を握り返す。
 それから、ふたつの影は重なった。
 ――レイは、それ以上見る事ができなかった。涙があふれて止まらなくなった。
 ……本当は、レイにとって、目など、周囲の状況を認識する器官では無い。しかし、ミイラを見つけに行ったあの時もそうだったけれど、自分の心の中の様子がそのまま視野となっているかのように、霞んで何も見えなくなった。
 レイの脳裏に最後に残ったふたりの姿は、司祭の前で永遠の愛を誓うカップル、そのものだった。
 
 ―――あ、り、が、と、う―――。
 
 あの時と同じ声がそう告げるのが、レイの耳に届いた。


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