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第壱話  扉
 
 
 昭和二年、冬。
 
 前の天皇陛下のご大喪で、神田の街には、厳粛な空気が流れていた。
 市電を下りてから内堀通りを歩いていた椎名桜子は、場違いな感じに襲われて、脇道へと入った。
 ……ただでさえ慣れない東京の街なのに、こんな路地裏に入ったら、もっと分からなくなるじゃないの。
 そうは思うけれども、憲兵に不敬罪と咎められたりしたら、もっと厄介だ。仕方なく、桜子はチラシを見つつ、方向を見定めて歩き出した。
 
 上京して十日目。
 まだまだ、都会の生活には慣れていない。
 まず、田舎と違って、建物がと人が多過ぎて、街を歩くだけで眩暈がしてくる。
 
 だからといって、田舎ののんびりした風景は、見るのも嫌だった。
 田んぼしか無いし、牛の糞臭いし、男の人とでも話そうものなら、すぐに村じゅうの噂になる。真偽を確かめもせずに親には「はしたない」とどやされ、隣のおばさんは明らかに余所余所しくなった。
 ……ただ、草履の鼻緒が切れて困ってそうだったから、手伝って上げただけじゃない。
 桜子は、心底嫌気が差して、家を飛び出した。
 
 でも、東京での生活は、思った以上に大変だった。
 お金が無ければ何も出来ない。部屋を借り、生活用品を用意し、自炊する。当然の事ながら、野菜や米は家の畑から採って来るという訳にはいかず、お金を出して八百屋で買わなければいけない。少し遠く買い物に出ようと市電を使えば、それにもいちいちお金が掛かる。そして、水までもがタダじゃないと知った時には、絶望的なまでに驚いた。
 母の箪笥から拝借してきたお金も、そろそろ底を尽きそうになり、桜子は、仕事を探そうとしていた。
 
 しかし、こんな大都会でも、家出者の女を雇ってくれるようなところは中々見つからなかった。――水商売に入れば楽なのは知っている。でも、そうはしたく無かった。そんな事をしたら、もう二度と、田舎に帰れなくなる。
 ……何処かで矛盾した心境を抱えながら、桜子は何とか、都会に馴染もうと必死だった。
 
 細い路地を抜けると、唐突に、目の前に大きな建物が見えた。
 ――あれが、噂の「九段下ビルヂング」かしら。
 鉄筋コンクリートに茶色のタイルが施された意匠の凝った外観は、モダンでお洒落だ。まだ工事中みたいだけれども……。
 ……いつか、遊びに行ってみたいわ。
 そう思いつつ、手にしたチラシの地図を確認してみる。
 
 このチラシは、アパートメントの大家さんが、桜子が仕事に困っていると知って、どこかで見つけて来てくれた。
「雑用係募集、年齢・性別問わず、日給1円だって!あなたにはピッタリじゃないの?
 ……ただ、『探偵社』ってのが、どうかとは思うけどね」
 お節介なおばさんだが、田舎から出て来たばかりの桜子にとっては、有り難い存在だった。とりあえず、行くだけ行ってみたら?と勧められ、桜子はそこに書かれた地図を見ながら、神保町を歩いているのだった。
 
 ――ええと、九段下ビルがここで、そこを曲がって大学の方へ行って、それから……。
 ブツブツ呟いていると、通りすがりの人が不審な目を送ってくる。お上りさんなのは本当なんだから、それは仕方無い。……しかし、誰も「どうしたのですか?」とは聞いて来ないわね。東京の人って冷たいわ。……でも、大家さんが言うには、逆に話し掛けて来るような奴には注意した方がいいそうね。詐欺師とか強盗だとか、そんなのがウヨウヨしてるらしいから。
 東京とは、怖いところだ。
 
 幾つかの路地を抜け、大通りの喧騒を離れてしばらく行ったところが、目的地のようだった。
 そんな距離は歩いていないと思うけれど、慣れない靴のせいで足が痛い。見ると、靴擦れが出来てストッキングが破れていた。
「――嫌だわ。どうしましょ……」
 桜子は、スカートの裾を気にしつつ屈み込んで、足首をハンカチで押さえた。
 
 すると、何となく誰かに見られているような気がした。
 ……いくら街中とはいえ、こんな路地裏に、人気なんか無いのに。
 不思議に思って、桜子は周囲に視線を送ってみた。――すると、小さな金色の瞳と目が合った。
 ――なんだ、猫か。
 でも、黒猫だなんて、縁起でも無いわ。
 桜子は、手をシッシッと振った。けれども、猫は桜子を見たまま、動こうとしない。何となく腹が立ってきて、近くに転がっていた石ころを投げつける。それには猫もビクッと飛び上がり、タタタッとどこかへ走って行った。
 
 ――さぁ、困ったわ。靴擦れはともかく、破れたストッキングを履いてるのは見っとも無いわね……。
 少し迷ったが、もう一度、人目が無い事を確認してから、コートで足元を隠すようにしてストッキングを脱いだ。
 ……まだ、裸足の方がマシだわ。同じ肌色だし、バレなきゃいいのよ。
 しかし、二月の風は素足には寒過ぎる。コートでできるだけ身体を覆うようにして、桜子は再びチラシに目をやった。
 この辺りの筈だけれど。
 そうして、周囲を見回してみると……。
 
 再び、黒猫と目が合った。
「やだ、見てたのね!このスケベ!!」
 桜子は猫の方へ駆け寄り、蹴る格好をした。すると猫は、身軽に生垣の奥へと駆け込んで行った。
 
 それを追い掛けるように視線を送っていて、桜子は気付いた。
 ――生垣の横の建物に、何やら看板が掛かっている。
 近付いて見ると、その小さな木の札には、『犬神心霊探偵社』と、毛筆の字で書かれていた。
 ……ここだわ!
 皮肉にも、猫が居なかったら通り過ぎてしまっていたかもしれない。もう少し看板を目立つようにしとかないと、お客さんも通り過ぎちゃうわよ。そんな事を思いながら、桜子はその建物を見てみた。
 
 それは、二階建ての瀟洒な洋館だった。漆喰と煉瓦の壁に枯れた蔦が這い、古風な雰囲気を醸し出している。実際、少なくとも明治の建物ではあるだろう。階段への入り口には、ところどころ苔の生えた跡もある。
 あの関東大震災でも壊れなかったとは、相当丈夫な建物みたいね。
 少し感心しながら、桜子は看板の脇の階段を覗いてみた。多分、ここを上がれって意味だと思うけれど……。
 
 すると、階段の壁にある明かり取りの隙間から、隣の生け垣の山茶花が顔を出しているのが見えた。
 桜子は、特に東京に来てからは、花になぞ興味を持たなかった。そんな余裕も無かった。けれども、目的地を見つけた安心感からか、この時、桜子の目にはその薄赤い花弁がとても新鮮に映った。
 ――綺麗ね。
 桜子は、山茶花をそっと撫で、二階へと向かった。


>> 次へ



 連載始めました。
 とりあえず、1話だけやっちゃいます。
 当時の時代背景や地名などに、できるだけ忠実に従おうと調べながらですので、まったり更新になります。
 1話だけ書き終わったら「transcender」再開します。
 ちょっとした息抜きです。申し訳ありません。

【追記】
 東北地震の被災者の皆様には、心よりお悔やみを申し上げます。
 私に出来る事といえば、些細な節電と少額の募金程度ですが、一人でも多い安否確認、一刻も早い復興を、お祈り申し上げます。
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