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 ……外はすっかり日が落ちていた。
 街灯も無い為、月明かりだけを頼りに田舎道を進む。――あちらこちらから蛙やら鈴虫やらの声が聞こえ、蛍が舞っている。
 しかし、そんな風流な光景も、この場合は何の慰めにもならなかった。
「………駅まで相当遠いんですけど、歩くんですか?」
「歩かなければ、走りますか?」
「誰もそんな事を言ってませんよ」
「こんな田舎道、しかもこんな夜に、ハイヤーも走って居なければ、公衆電話も有りません。歩くしか無いでしょうね」
「駅まで歩いたら、どの位掛かりますか?」
「少なくとも、終電は行ってしまっているでしょうね」
「……なら、どうするんですか?」
「野宿、ですかね」
「…………」
 桜子がわざとらしく蚊を払う仕草をした。――まぁ、確かに、こんな場所での野宿は厳しい。かと言って、宿屋がある様な場所でも無い。正直、零も参った。
 
 「――あの頑固親父の顔を見てたら、自分の父親を思い出しました」
 桜子が不意に話し出した。
「……故郷が恋しくなりましたか?」
「いや、全然。――と言ったら、嘘になるかも」
 桜子は顔を伏せ、鞄を膝で蹴る様な仕草をした。
「でも、私の父も頑固でしたけど、あんな事は無かったですよ。――あの子たち、恋人もだけれど、友達を作る事も許されないみたいで、聞いてて可哀そうになりました」
 桜子は続けた。桜子が梅子と一緒に顔を出した時、「友達面をして梅子に取り入り、財産を奪う気だろう」と怒鳴られた、と。
「初め見た時、梅子さん、人形みたいだって思いましたけど、見た目だけじゃなくて、実生活も人形そのものなんだわ。自分の意思で何かをする事を許されず、只、綺麗な格好をして家の中で座ってるだけ。
 ――私だったら、とても耐えられないわ」
「其れだけ、父上が愛して居られるのではありませんか?」
「私には、そうは見えなかったわ。あのお父さんが愛しているのは、家と財産だけ、って風に思えるんですけど」
「そうでしょうか?でも其れならば、双子が産まれた時に、どちらかを手放したとしてもおかしくありませんが、あの父上はそうはしなかった。――其れが娘さんに対する愛で無ければ、何なんですかね?」
「……何だか複雑ですね」
「人間の心理と云うのは、そうそう竹を割った様に単純にはいかないものです」
 
 ……其れからしばらく歩いたが、変わり映えのしない田んぼ道が続くばかりで、一向に駅に近付いている気がしない。
 まだ、自分一人ならば何とでもなるが、桜子を巻き込んだ責任上、余り惨めな思いをさせたくは無い。本気でどうしたものか考え出した頃、遠くから誰かを呼ぶ様な声が聞こえる事に気付いた。
 後ろを振り向いて見ると、自転車のライトが揺れながら近付いて来るのが見えた。――目を凝らして見ると、其れは玄関で零たちを見送った、木住野家の下男の姿だった。此方に手を振って、呼び掛けている様だ。
「――おや?」
 足を止めて待っていると、やがて、零の前で自転車を止め、自転車から降りた。息を弾ませながら、零に頭を下げる。
「先程は、失礼致しました。――松子様のお言い付けで、お二人をお迎えに上がりました」
「……話がまとまったのですか?」
「いえ。――ご主人様がご自分のお部屋にお引き取りになったので、松子様が、呼び戻される様に申されまして。此の様な時間にお泊りになる場所も無いでしょうから、離れにご案内する様、準備も致しております」
「左様ですか」
 ……どんな理由であれ、此の状況では非常に有り難い。零と桜子は、下男――貞吉と名乗った――に伴われて、木住野家に戻った。
 
 再び応接室へ通されると、其処には、家主以外の家人が残っていた。
 零の顔を見ると、松子が立ち上がり、駆け寄って手を取った。
「先程は、父が大変なご無礼を致しました。良くお戻りくださりました。さぁ、此方へお掛けくださいませ」
 白い手に引かれ、零と桜子は、先程まで家主が座っていた席の向かいに腰を下ろした。
 
 其れから、松子から面々の紹介を受けた。
 先ず、この場に居ない、家主の十四郎。
 そして、松子の向かいに座る、奥方の鶴代。――松子や双子も相当な美人だが、其れは母親譲りであろう。四十は裕に超えているだろうが、皺ひとつ無く、非常に整った顔立ちをしている。……だが、何処か呆けた様な雰囲気がある。白痴美人とは、こう云う人の事だろう。
 其れから、隣に座る梅子。相変わらず、西洋人形の様に可憐なドレスを着て、背を伸ばして座っている。
 其の斜め向かいの、竹子。
 ――竹子の話から、この双子姉妹は余り仲が良くない事は察していた。此の場でも、梅子の隣の席が空いているにも関わらず、敢えて離れた席を選んでいる事から、零は確信した。
 そして、竹子の向こうの、清弥。先程の十四郎の発言から、松子の夫だと云う事は分かった。――しかし、此の様な田舎には似つかわしく無い、役者の様な線の細い美男子だ。と思っていたら、
「うちの主人、以前は役者をして居りましたの。帝国劇場の舞台にも、上がった事が有りましてよ」
と、松子が嬉しそうに語った。「自慢する程の事では有りませんよ」と、清弥は松子をたしなめた。
「――そして、私が長女の松子と申します。
 木住野家の家族は、以上ですわ」
 そう言いながら、松子が零に流し目を送った。――只でさえ妖艶な雰囲気が有るが、此の様な目線で見られると、大抵の男ならゾクッと勘違いをするであろう。
 零の心境を察したのか、隣で桜子がエヘンと咳払いをした。
 
 「――他に、家人の方は?」
「あと、下男の貞吉と、下女の亀乃が居りますの。――亀乃、お茶をご用意して」
 松子が言うと、亀乃は十四郎が居ないか気にしているのだろう、キョロキョロと周囲を見回してから、頭を下げて小走りに去った。
「――あの子、名前が気に入って雇ったのですのよ。
 松子、竹子、梅子の松竹梅。そして、私が鶴代でしょ?ですから、亀が揃えば、此れ以上縁起の良い組み合わせは無いではありませんか」
 鶴代がホホホと笑った。
「けれども、まだあの様に幼いでしょう?ですから、失敗も多くて。其れが父は気に入らないのですわ」
 松子が付け加えた。
 
 間も無く、亀乃はお盆に湯呑と茶菓子を載せて戻って来た。其れをおどおどとした様子でテーブルに並べ、ペコリと頭を下げて去った。
 折角なので、お茶に口を付ける。――茶葉も上等な物だろうが、淹れ方も上手に出来ている。玉露の甘い香りが鼻腔を満たした。
 其の時、零はふと思い出して梅子を見た。確か、緑茶が苦手だと言っていた。――案の定、梅子は湯呑には手を付けず、茶菓子だけを頬張っていた。
 
 湯呑を置きながら、零は言った。
 「――では、私どもも自己紹介をさせて頂きます。
 ……私は、犬神零。しがない探偵兼、陰陽師をして居ります。――で、此方が、当探偵社の事務員兼用心棒の、椎名桜子」
「余計な出鱈目は言わないで頂けます?」
 桜子がギロリと睨んだが、話題は其の方向へは向かなかった。
「まぁ、陰陽師さんとは。初めて拝見致しましたわ。どの様な事をなさるのですの?」
 先程も言った筈だが、鶴代は忘れているのか、物珍しそうな顔を零に向けた。
「いろいろ御座いますが、憑き物祓いが主な処です。他には、家に棲み付いた物の怪を退治してくれだとか、そう云った処です」
「では、あの忌まわしい天狗を退治してくださるのですね?」
 
 ――何気なく口にしただけだろうが、鶴代以外の面々は、或る者はギョッとした様に目を開き、或る者は恐怖に震える様に肩を竦め、様々な表情を見せた。
 
 「はい。しかし、梅子さんと竹子さんにはご説明しましたが、私の考えでは、村人と脅かしているのは天狗では無く、悪意を持った何者かだと考えております。しかし、確証は有りませんので、明日、天狗の棲む山を調べようかと思っています」
「あら、そうですの?此の辺は山が多いでしょう?ですから、気候が変わり易いのです。最近は、夜に雨が降る事が多いのですわ。如何か、泥濘に足を取られない様に、お気を付けになってくださいまし」
 松子が零を見ながら言った。
「父はあぁ云う人ですから、何と話をしても聞き入れては貰えませんわ。ですから、私が父に分からぬ様、離れを使える様に致しますから、天狗が退治出来る迄、何日でも、ご滞在為すって下さって結構ですのよ」
「其れはどうも。――しかし、天狗に間違えられて撃たれては堪りませんので、早い処、正体を見極めたいと思っています」
 
 其の後、今日は遅いので此れでと、松子に案内されて零たちは離れへ向かった。
 
 離れは、母屋から庭園を挟んだ向こうに在り、確かに人が一人や二人寝泊まりしていても、母屋からでは分からないだろう。
 そして、飛び石の道が枝分かれした向こうに、松子と清弥夫婦の暮らす離れが在るらしい。
「何かありましたら、こちらに言ってくだされば、何でも致しますわ」
 そう言う松子に手を取られ、離れに入ると、八畳程の和室に、既に布団が用意してあった。
「此処は客間として使っていますの。しかし、此の様な田舎に客がある事なんて、年に何回も御座いません。どうぞ、お気兼ね無く使ってくださいまし」
 
 ……そう言いながらも、松子は去ろうとはしなかった。
「――何か、ご心配事でも?」
 零は松子に向き直り、其の様子を見ていたが、言葉に窮している様に口に手を当てて考えている様子だった。
 しかし、やがて決意した様に顔を上げて言った。
「私、天狗よりも村の人よりも、其れを怖れた妹たちがお互いに殺し合うんじゃないかと、其れが心配なのです。
 ――何卒、妹たちを、お助けくださいまし」


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