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オリジナル小説のダストボックス

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 「―――父は、妹たちを溺愛して居りました。今でもですが……。
 妹たちは、外へ出れば、天狗の伝説を信じる村の方々に、嫌な目を向けられなければなりません。何せ、天狗の山を守る木住野家が、其の禁を破ったのですから。
 ですから、学校はおろか、ろくに家の外に出た事も無いのです。父が、辛い目に遭わせたくないと、家から出る事を許さないのです。――私から見れば、可哀そうな境遇ですわ」
 松子は、上がり端に腰を下ろし、語り出した。
 桜子も、零の後ろで其れを聞いていたのだが……、何となく、首の後ろ辺りに刺々しい視線を感じる。
 
 「父はあぁ云う頑固者でしょう?しかも、お察しかと思いますけれど、母は、少し、考えが足りない処が有りまして、妹たちの教育については、何も口出しをして来ませんでした」
「では、何方が、妹さんたちをお育てになったのです?」
「私もですが、乳母に育てられました。其の乳母も、数年前に亡くなったのですけれど」
「左様ですか」
「そういう風ですから、私たち三姉妹は、何時も一緒に居りました。他に、同じ世代の遊び相手も居りませんので。
 ――ですけれど、殿方にはお分かりになられないかも知れませんけれど、女きょうだいとは、難しいものなのですよ。特に、外の世界を知らない、私たちの様な境遇ですと……」
「ほほぅ」
「喧嘩をしても、愚痴をこぼす相手も居りません。ですから、少しだけ年長の私が、妹たちの愚痴の聞き役をして居りました。何とか、仲良くやって欲しいとは思っていたのですけれど、仲直りをする前に、また次の喧嘩をする始末で」
「妹さん達は、仲がお悪いので?」
「悪いと云うよりも、妹たちは、あの通り瓜二つでしょう?其れが、お互いの競争意識を刺激するのか、何でも競い合って来たのです。お裁縫でも、お化粧でも、好きな殿方の事でも……。お互いに、決して譲り合う事は有りません。何時も真剣勝負ですの。見ていて怖いくらいに……。
 そんな風ですから、少しでも無駄な争いを避ける為でしょうか、あの通り、着る物だけは、全然違う物を好む様になった様でして」
 其れだけ、お互いがお互いを意識し合って来たという事だろう。兄弟どころか、身内の無い零には、些か理解し難い感覚だ。
 
 「ですから、今回の事にしても、極端な考えに走らなければ良いけれどと、心配して居りますの。何とか、助けてくださいまし」
「しかし梅子さんは、村人に殺されるのではと恐れて居られましたよ。――最近、天狗が出るそうですね」
「えぇ。山に入る猟師連中が、天狗を見たと父の処へ言いに来たのが、一度や二度では有りません。其の猟師連中のまとめ役をしている熊八と云う人などは、天狗の祟りが起こると言って、露骨に父に喰って掛かるのです。父も負けては居りませんが」
「其れは、若い娘さんがたにとっては、怖いでしょうねぇ」
「村の人が家に来る度に、部屋に籠って怯えておりますわ」
「其の天狗は、ご覧になった事はおありですか?」
「いいえ、私は御座いません。――何度か、母が見たと申して居りましたけれど、人の気を引く為に、良くいい加減な事を言う人ですから、本当かどうかは分かりません」
「明日、裏の山を調べさせて頂きますよ。そうすれば、本当の天狗なのか、偽物なのか、分かりますから」
 
 宜しくお願いしますと、松子は頭を下げて立ち上がった。そして、此れにて失礼と出て行こうとしたのだが……。
「――あら、雨」
「つい今しがた、降り出した様ですね」
「まぁ。気付きませんでしたわ。話に夢中になって居りましたので。
 お顔の綺麗な殿方とお話ししていると、時間も忘れてしまう様ですわ」
 松子はそう言ってニコリと零を見て、離れに備え付けられている番傘を開き、出て行った。
 
――松子が去った後、桜子はやはり、此の上無く不機嫌だった。
「……夫婦でも無いのに、なぜ男の人と同じ部屋で寝なければならないのですか?」
 ツンと顔を背けて、口を尖らせた。
「仕方無いでしょう?其れとも、野宿した方が良かったですか?」
「…………」
 此の離れには、部屋が一つしか無い。だから、必然的に隣合わせで寝る事になるのだが……。
 不機嫌な原因は、やはり其れだけでは無かった。
 
 「そりゃ、私は松子さんみたく美人じゃありませんけど、安っぽく見ないでください。変に勘違いされて、お嫁に行けなくなったら、責任取って貰いますからね!」
 桜子はそう言いながら、布団を限界まで離して、其の間に枕屏風を置いて仕切りを作った。
「責任も何も、私は構いませんよ。私は桜子さんを、素敵な方だと思っています」
 其の布団に横になりながら零が言うと、枕屏風の上から、顔を真っ赤にしてむくれた桜子の顔が覗いた。
「そう云う白々しい処が嫌いなんです!!
 この屏風から一歩でも入って御覧なさい、腕をへし折ってやるから!」
 ――妙に現実的な脅し文句に、嫌な過去を思い出させられて、零は首を竦めた。……桜子の場合、何も覚えて居ないから言える事であって、一片でも記憶が残っていれば、――一体、どんな態度を見せるのだろう?
 
 桜子も布団に落ち付いた様なので、零は声を掛けてみた。
「――如何思いますか?今回の件は」
「如何もこうも、私にはさっぱり分かりません」
「そう突っぱねないでください。女性としての意見を聞きたいのです」
「……まぁ、如何してもと云うのなら……」
 桜子が勿体付けるように言った。
「此の家の人、みんな変ですわ」
「……やはり、そう思いますか」
 零は桜子の方へ目を向けた。しかし、目の前に屏風裏の黒っぽい紙の模様が見えるだけで、何も見えない。
 
 「先ず、ご主人の十四郎さん。財産と娘さんの事は大事にされてるみたいですけど、奥様の鶴代さんの事は、あまり気に掛けて居られない様ですね。――と言うより、避けてるみたい」
「どうして、そう思うのですか?」
「十四郎さんが亀乃さんを怒って居た時。鶴代さんに勝手な事を言うなとたしなめるのが普通じゃありません?けれども、十四郎さんは亀乃さんを咎めた。私には、其れが鶴代さんの機嫌を損ねたくないからと云うより、相手にしたくないからと見えたのですが」
「私も、其処は違和感を覚えました」
「ですから、松子さんが先程されていた話と合わせると、奥様の鶴代さんが、あの様に大らか過ぎる方だから、怒っても無駄だと思って、代わりに亀乃さんに八つ当たりをした」
「そうだとしたら、十四郎さんの性格も分かりますね。あの通り、単に怒りっぽいのでは無く、自分に服従しない者が許せない気性なのでは、と思えます。
 鶴代さんを怒鳴っても思う様な反応が見られない事を知っているから、満足出来る反応を返してくれる亀乃さんに当たった。そう考えれば、納得できます。
 ――私は、あぁいう方は苦手です」
 
 屏風の向こうで、桜子が寝返りを打つのが分かった。
「仕事なんですから、我慢してください。
 ――でも、其れを起点に考えると、此の家の人たちがなぜあんな風になったのか、分かる気がしますね。
 梅子さんと竹子さんは、互いに競争意識を燃やしつつも、お父上に認めて貰える様、ひたすら良い子を演じてきた結果、人形の様になってしまった。
 松子さんは、あの様な気性のお父上の姿を見て居るから、そう云う男性が嫌で、全く違う雰囲気の優男を、反対を押し切ってまで旦那さんに選んだ。
 ……天狗なんかよりも、此の家の中の方が問題な気がしますわ」
「しかし、果たして其れだけでしょうか」
「――と言うと?」
「何か、もっと、ピリピリとした針の筵の様な居心地の悪さを感じるのですよ」
「そうなんですか?私には、美女に囲まれて鼻の下を伸ばしている様にしか見えませんでしたけど」
「そんな事は有りませんよ。私は何時も……」
 
 ――何だか、無性に眠気が襲って来た。移動やら、気を使う場面やらの疲れが出たのだろうか。
 桜子も同じ様で、
「眠くなってきたので寝ます。おやすみなさい」
と言って、其れっきり黙り込んでしまった。
 零には、この際だから、伝えておきたい事があったのだが……。
 其れを言葉にする前に、零もまた、睡魔に呑み込まれた。
 
 
 
 ――翌朝。
 激しく肩を揺さぶられて、零は目を覚ました。
 
 目を開くと、其処には貞吉の顔があった。
 貞吉は、血走った目を見開き、震える声で零に告げた。
「………う、梅子様が、お亡くなりになりました」
 
 
 
 妙に重い頭の儘、貞吉に引っ張られ、零は庭を走った。
 夜中の雨で地面が濡れ、其れが朝日に照らされて、朝靄が立ち込めている。
 木住野家は広く、其の敷地の最も奥まった場所に在る「天狗堂」に辿り着く頃には、半ば息切れをしていた。
 斜面に建てられた社の前には、清弥が立っていた。只でさえ白い顔を蒼白にして、此方に顔を向ける。
 そして零を見ると、無言で社の中を示した。
 
 格子戸を開け放たれた社の中は、一坪程の広さだろうか。ガランとした空間で、正面奥に、天狗の面と注連縄が飾られている。
 
 ―――其の前に、梅子が倒れていた。
 
 昨日と同じ、可憐な洋装姿で、身体を捩じる様に天井を向き、ガラス玉の様な目は、天井の模様を映していた。――事切れている事は、一目瞭然だった。
 
 さすがに、零も絶句した。しかし、探偵と云う立場である以上、何もしない訳にはいかない。何とか呼吸を落ち着けると、貞吉に尋ねた。
「――誰が、発見したのです?」
「私です。私が毎朝、此処の榊を替える事に為っているので」
「警察へは?」
「松子様が、母屋に電話をしに行かれています。ご主人様と鶴代様も、もうすぐいらっしゃるでしょう」
「なぜ……なぜ………」
 その横で、清弥が顎をガクガクと震わせている。
 
 零は、下駄を脱いで社に上がった。そして、梅子の亡骸に近付く。
「何をするんですか!?」
「私も探偵ですのでね。なぜ、亡くなったのか位は、調べられないものかと思いまして」
 零は屈み込んで見てみた。――外傷は無さそうだ。血の跡も無い。
 ならばと、そっと首元を見てみる。ドレスの立ち襟をそっと捲ってみると、――くっきりと赤黒く、紐の跡が残っていた。首を絞められたのだろう。抵抗した跡だろうか、爪で引っ掻かれた様な傷もあった。
 それから手をそっと触ってみる。――完全に冷たくなっているから、恐らく、死後数時間は経っているだろう。
 其れにしても、誰が……?
 
 「―――て、天狗に襲われたのでしょうか?」
 清弥が震える声で言った。
「……天狗では無いと、私は思います。なぜなら、天狗が人を殺すのに、首を絞めたりするでしょうか……」
 零は立ち上がり、社の中を見渡してみた。
 ――恐らく、凶器は紐。この社に凶器が残されている事は無いか。
 しかし、紐らしき物は注連縄くらいのもので、綺麗に結い上げられた様子は、とても凶器として使われた後とは思えなかった。
 其れから、社の周辺を見回ろうと、外へ出た。――社の入口から、木住野家の敷地が一望できる。朝靄の中、瓦葺の屋根が濡れているのが見えた。
 地面も雨を吸って柔らかくなっているから、足跡を付けぬ様、飛び石の上を歩く。
 ――そうして下を向いて歩いていたら、ある物に気が付いた。
 
 ………足跡。
 
 靴では無い。長方形の形が、地面にぐいと判を押された様にくっきりと残っている。――一本歯の下駄なら、此の様な形になるだろうか。其れを目で追うと、山の方へと続いていた。
 一本歯の下駄、山への逃走経路……。
 ――何だか天狗が犯人であると、訴えたい様な痕跡だ。
 
 しかし、と零は思った。
 ――此の足跡は、間違い無く雨が降った跡に付けられたものだが、梅子の髪や衣服は乾いていた。
 つまり、梅子が殺されたのは雨が降る前で、此の足跡は、其れを誤魔化す為の偽装……。
 
 其の時、唐突に腕を取られ、捩じ上げられた。――未だ、以前の傷が治り切っていないから堪らない。零は痛みから逃れる様に膝を折った。
 ……見ると、警官が零を睨んでいる。――やっと警察が到着した様だ。しかし、話も聞かずにいきなり暴力に出る事は無いだろう。
 すると、警官の背後から一人の男がやって来た。――中年のがたいの良い、いかにも刑事と云う雰囲気の人物。
 其の人物は、零に身分証を示しながら言った。
「木住野梅子殺害の容疑者として、貴様の身柄を確保する」


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