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第参話  三姉妹
 
 
 梅雨が明け、燦々と照り輝く太陽が、部屋の中に夏の光を届けて居る。午前中は煩かった蝉の声も、午後を過ぎるとすっかりと止み、茹だる様な熱さだけが、此処、犬神心霊探偵社の事務所に居座っていた。
 開け放たれた窓から風でも入って来れば、少しは違うのだろうけれど、天井の扇風機だけじゃ、とても足りないわ。
 椎名桜子は、ハンカチで額の汗を拭いつつ、応接の長椅子で帳簿の整理をしていた。
 
 向かいの椅子には、十歳ばかりの少年。先程から飽きもせず、サイコロを崩れるまで積み上げ、崩れたらまた積み上げる作業を繰り返している。――正直、サイコロのカラカラと云う音が煩わしい。
「―――ねぇ、ハルアキ。何してるの?」
「精神統一の修行じゃ」
「…………」
 普段は奥の書斎から出ても来ない、引き篭もり少年のハルアキ。
 最近はさすがに暑いのか、来客が無い時は事務所に居る様になったのだが、――見れば見る程、相当変わっている。自分の事を「拙者」なんて呼んだり、常に上から目線の話し方だったり、こんな妙な事をずーっとやってたり。……何様なの?
 
 しかし、変わっているのは、ハルアキだけでは無い。
 この探偵社の主である犬神零にしたってそうだ。……第一、こんな暑い時に、あんな長い髪をして派手な着物を着込んで、よく涼しい顔をして座っていられるわね。見てるだけで暑苦しいわ。
 桜子は零の座る事務机の方にチラリと目を向けた。
 零は、病的なまでに白い肌に汗ひとつ浮かべず、新聞を眺めている。――が、桜子の視線を感じてか、不意に顔を上げたから目が合った。
 ……並みの女性なら、目が合っただけで舞い上がってしまいそうな程の色男。
 けれども、桜子はそうはならない。――最初に見た時には、人並みの反応をしたのだけれど、慣れもあるが、普段の様子を見ていると、見れば見る程興醒めする。
 
 零は、小首を傾げて言った。
「……何か?」
 ――ちょっと目が合ったくらいで、いちいち質問して来ないで欲しい。返答に困るじゃない。
 困った挙句、桜子は当たり障りの無い事を返した。
「暑いですね」
「夏ですからね」
 ……もう少し、気の利いた返答は出来ないのか。
「――しかし、此れは良いですよ。桜子さんも如何ですか?」
 零は足元を示した。――見ると、水を張った桶に足を突っ込んでいる。……そう云う事って、普通、仕事場じゃやらないでしょ?お客さんが来たらどうするのよ?
「結構です」
 後からドジョウを買って来て、あの桶に入れておいてやろう、桜子は心に誓った。
 
 ―――と、コンコンと、入口の扉がノックされる音がした。……ほら来た。
 だが、零は慌てる様子も無い。ごく当たり前の様子で手拭いを取り出し、足を拭きながら言った。
「開いてますよ。どうぞお入りください」
 ……そうは言っても、さすがに出ない訳にもいかない。桜子は立ち上がり、扉を開けた。
 
 其処には、西洋人形の様な格好をした少女が立っていた。
 
 
 
 この暑いのに、髪を胸にまで下ろして、頭にはレースのボンネット帽、襟の詰まったフリルの付いたワンピースに、長靴下を履いている。
 ――そして、本人の顔立ちまでもが人形のようで、クリッとした大きな目と長い睫毛は、まるで作り物のようにすら見えた。
 あまりの現実離れした姿に、桜子は一瞬唖然とした。すると、少女は小首を傾げた。
「……こちら、犬神心霊探偵社様ではありませんこと?」
 ――声までもが、鈴を鳴らす様な可愛らしさ。桜子は、何度か瞬きをして此れが現実であると脳に認識させた後、少女を応接へ導いた。
 
 ――いつの間にか、ハルアキが居なくなっている。書斎に撤収したのだろう。
「暑かったでしょう。どうぞ、そちらの長椅子にお掛けください」
 零が下駄に足を入れながら言った。――さすがに、足袋は止めた様だ。
 桜子がお茶を入れに去ると、入れ替わりに零が応接へやって来て、少女の前に座った。
 
 ――少女と云っても、十六、七にはなるだろう。あんな格好をしているから幼く見えるが、体付きは年頃の娘さんだ。
 さすがに熱いお茶は飲みたくないだろうと、ティーポットを冷やしながら、桜子は応接の様子を伺った。
 育ちが良い雰囲気が其処彼処に見て取れる。今も、背筋をピンと伸ばして、揃えた膝に手を置いて座っていた。
 
 「――ご依頼で宜しいですか?」
 零が言うと、少女は「はい」と頷いた。
「ご依頼内容をお伺いする前に、必ず確認しておくのですが……。
 ――真実をお知りになる御覚悟は、おありですか?」
 すると、少女は不思議そうに小首を傾げた。
「其れは、如何いった意味ですの?」
「いえね、こう云う仕事をしていますと、時に依頼人様の望んでいない真相に行き着いてしまう事があるのです。そうなった場合にも、其れを受け入れて頂かねば、真の解決とは申せませんので」
「まぁ、大変ですのね」
 少女は指を揃えて口を押さえた。
「けれども、問題はありませんわ。私は、真実を知りたいと考えて居りますから」
「そうですか。――では、ご依頼の内容をお話し頂けますか?」
 零が促すと、少女は少し目を伏せ、暗い表情をした。
「―――私、此の儘ですと、殺されるかもしれないのです。助けて頂けませんか?」
 
 「……ほほぅ、其れは穏やかではありませんね」
 桜子がテーブルに氷の入ったグラスを置くと、零が勧める。少女は其れを手に取り、目の前に掲げた。
「まぁ、お紅茶ですの?私、緑茶が苦手なので、嬉しいですわ」
 少女は初めてニコリとした。――ずっと人形の様に無表情だったが、笑顔を見て、やっと人間らしさが垣間見えた気がした。
 喉を潤すと落ち着いたのか、少女は話し出した。
 
 「……まず、私の名前は木住野(きしの)梅子と申します。
私の家は、奥多摩で代々名主をして居ります。田畑を貸したり、山の木を売ったりして、生活をしているんですの」
「奥多摩からとは、また遠い処を……」
「いえ。是非、犬神様に是非お逢いしたいと、――此れを拝見致しまして」
 梅子は手にした鞄の中から、一冊の雑誌を取り出した。其れをテーブルに開いて置く。
 ……そのページを覗き込んで、桜子は唖然とした。
 いかにも婦人向けという誌面の、『街で見掛けた美青年』と云う文字の下に、零の写真が印刷されている。
「―――何やってるんですか?」
 桜子が白い目を向けると、だが零は平然と答えた。
「此れも営業活動です。暇が続くと、桜子さんに給料も払えなくなってしまいます。少しでも多くの仕事が来ないかと云う、涙ぐましい努力ですよ。――そして、現にこうして成果が出ているではありませんか」
「姉も、犬神様に大変興味を持って居りまして、是非お逢いしたいと申して居りましたわ」
「ほほぅ、ご姉妹が居られるのですか」
「はい。私たち、三人姉妹でして、二十歳の姉と、私ともう一人は双子なのです」
「ほぅ」
「……それで、その双子と云うのがそもそもの問題なのでして……」
 梅子は再び暗い表情をした。
 
 「私が住む部落には、昔から言い伝えがあるのです。
 ――双子が生まれると、村に災厄が起こる、と。
 ですので、其の災厄を鎮める為に、双子のうち、どちらかを山の天狗様に捧げる事が決まりなのです」
「それはまた……」
「しかし父は、私たちが産まれた時、其の様な事は出鱈目だと申しまして、そうしなかったのです。
 それから、私たち姉妹は此れまで幸せに育てられて来たのですが、最近に為って……」
 梅子がフワリとしたスカートに置いた手をギュッと握った。
「天狗様が、村に現れる様になったのです」
「…………」
「天狗様が里に現れるのは、厄の前兆だと、村の者たちが申して聞きません。そして、私たち姉妹のどちらかを、天狗様へ捧げて其の災厄から逃れようと、相談をしている様なのです」
「なるほど……」
「私、怖いのです。村の人の目が怖くて、外にも出られません。何時か、殺されるのではないかと……」
「――お父上は、何と仰っておられるのです?」
「今は、私たちを差し出すつもりは無いと、頑として拒んでおります。しかし、父も年です。村の若い衆に集団で来られたら……」
 梅子の目から涙が落ちた。その雫が、握り締めた手の甲を濡らす。
 
 「……私、どうしたら宜しいのでしょう?」
 梅子が顔を上げた。涙で揺れる瞳を見返して、零はニコリとした。
「大丈夫です。天狗を退治してしまえば問題などありません」
「で、でも、其の様な事をしたら……」
「山の神様に逆らうとは罰当たりだと、村の人たちが許しませんか?」
 零は腕を組んで梅子を見た。
「しかし、考えてもご覧なさい。本当の神様なら、人を捧げ物として要求などしませんよ。――其の様な悪しき伝承は、人が勝手に作り出したものです。
 万一、天狗が山の神様だとして、人里に姿を現す事に如何云う意味があるのか。村の人たちが仰っている様に、災厄を知らせるものであるとしたら、人ひとりの命を捧げたところで、何の意味もありません。自然の災厄など、人間の力でどうにか出来る物ではありませんよ」
「でしたら……」
「私が思うに、其の天狗とは、何やら良からぬ事を考えている人が作り出した見せ掛けでしょう。そもそも、天狗が人前に姿を見せるなどと云う事は、余程で無ければ有り得ません。其れに、天狗と云う物の怪は、見た目が余りにも模倣し易い。
 恐らく、木住野家、もしくはお父上を良く思わぬ者が、嫌がらせをしているのでしょう。
 其れならば、早急に退治をすべきです」
「左様ですか……」
 梅子が少しホッとした様に目を伏せた。
 
 「――では、私の依頼を受けて頂けると云う事で、宜しいのですか?」
「はい。此処の処、非常に手空きでして。早速、明日にでもお伺いいたします」
「明日、ですか?」
「準備もありますので、一晩お時間を頂けませんか?」
 しかし、梅子は俯いてモジモジとしている。
「……あの、出来れば、今晩から、我が家にお泊り頂けないでしょうか?私、もう、怖くて怖くて……。此処に来る道中も、誰かに襲われるんじゃないかと、気が気ではありませんでしたの」
「左様、ですか……」
 零は困った様に頭を掻いた。――そして、こちらに顔を向けた。
「……では、桜子さん、梅子さんを家までお送りして頂けませんか?」
「はぁ?」
「こう見えて、剣道と柔道の達人なのです。警護役として、頼りにしてください」
 白々しい口調で梅子に説明する零の後頭部を、桜子は手にしてお盆で殴ってやろうかと思った。
「其れに、女性同士の方が何かと良いでしょう。明日、必ずお伺いしますから、桜子さん、今晩一晩、付き添いをお願い出来ませんか?」
 そう言いながら、桜子を見て、――あまりに不機嫌そうな様子を察知して、慌てて付け加えた。
「残業代と時間外手当は出しますので……」
「あの、そう云う意味では無く、私の都合は考えて貰えないのですか?」
「今晩、何か特別な用事でもあるのですか?」
「………ありません」
「ならば、宜しくお願いします」
 
 其れ以上反論するのも面倒になって、桜子は自分の鞄を持って出掛ける準備をした。そして、零に手を差し出す。
「交通費の支給をお願いします」
 苦い顔をして、零は財布からお金を取り出した。
「……あ、あと、弁当代も」
 ――手の平に数枚の紙幣が置かれた事を確認して、桜子は自分の財布に納めた。
 それから、零に聞こえる様に
「可愛い娘さんには親切なのね」
と独り言を呟いてから、梅子を伴って事務所を出た。


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