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 零の机の後ろの窓から、下の通りが見え、この建物に入って来る人物が分かるのだ。桜子が慌てて急須を出していると、派手なワンピース姿の若い女性が入って来た。桜子よりも若いだろう。――これが、御影弥生のようだ。
 
 弥生は事務所に入るなり、零に喰って掛かった。
「明日、蔵の扉が開くというのは、本当でしょうね!?」
「えぇ、本当ですよ?嘘は申しません。――正確に言えば、『今晩』、ですが」
「信じられないわ!ここ二十年も開いてないのよ?それに、あなたは此処でこうして呑気にしている。それなのに、なぜ、今晩開けられるなんて言い切れるの?」
「準備は全て整っています。後は、時を待つだけです。ですから、こうして、茶を飲んでいます」
 桜子が差し出した紅茶を受け取り、零は弥生に椅子を示した。だが、まだ信じられないといった顔で立ち尽くしている。
 やがて、疑り深い眼差しを零に向け、言った。
「……もし、開かなかったら?」
「この首、差し上げても構いません」
 ――横で聞いていて、桜子も焦った。どうしてそんな、命懸けの話になるのか!?
 しかし、さすがに弥生にもそんな気は無いようで、
「……分かったわ。あなたを信用するわ」
と言い、長椅子に座った。
 
 「――だけど、どうして、急に開けられる様になったの?どんな魔法を使ったの?」
 弥生は、ティーカップを手にしながら言った。
「まぁ、ある意味、魔法かも知れませんね。しかし、なぜか、時が来れば、開いてしまうのです」
「だから、どんな……」
「魔法(マジック)には、種と仕掛けが必要です。それをショーの前に知りたいというのは、野暮と云う物ですよ。その時になれば、嫌でも分かりますから。
 ――その際には、弥生さんにも、是非、お立ち会い頂きたいのです」
「何時、開くの?」
「今晩、――そうですね、日付が変わる辺り、でしょうか」
「分かったわ。……心構えをしておくわ」
「それが良いと思います。
 ところで、弥生さん。――あなたの今のお話し振りだと、蔵の中に何が在るのか、薄々ご存知のご様子でしたが?」
 零が、涼しいというよりは、冷気を纏った視線を弥生へ向けた。弥生はそれを横顔で受け流していたが、やがて、ゆっくりとティーカップを置いた。
「……何となく、だけれども、予想はしていたわ。けれども、確信が無かったの。それに……」
「それに?」
「それを知ってしまったら、私……」
 弥生は両手で顔を覆った。――肩が細かく震えている。泣いているのか……?
 桜子は驚いた。今までの様子から、人前で涙を見せる様な人だとは思わなかったのだ。桜子は慌ててハンカチを用意し、弥生にそっと差し出した。
 
 「――依頼をお受けする前に、申し上げた筈です。……真実をお知りになる覚悟はお在りか、と。今でも、そのお気持ちに変わりは御座いませんか?もし何でしたら、此処で、止めにする事も出来ますが」
 零のその言い方があまりにも事務的で、桜子はムッとした。……こんな状況で、しかも、こんなお嬢さんに対して言う事じゃないわ!
 しかし、弥生はハンカチを受け取り、涙を拭うと顔を上げた。
「分かってるわ。……全てを受け入れる覚悟は出来てる。――今晩、お待ちしています」
 そう言い、零にひとつ礼をすると、弥生は出て行った。
 
 「――一言言わせて頂きますけど、もう少し、優しい言い方って出来ないものですか?」
 弥生の姿が扉の向こうに消えた後、桜子は零に向き直った。
 しかし、零は悪びれる様子も無く言った。
「古来より、女性は魔物と云います。――特に、あの方は。
 貴女も、気を付けた方が宜しいですよ」
 
 
 
 ――そんな展開だったので、桜子は、見捨てて帰る事も出来なくなった。
 今晩、何かが起こる。……しかし、零をひとりで行かせたら、また弥生を傷付ける事を言いかねない。別に、弥生にそこまで同情している訳では無い。寧ろ、零への不信感だろう。
 
 桜子は言い張った。
「私、今晩、付いて行きますから。探偵社の一職員として、当然だと思います」
「悪い事は言いません。止めておいた方が良いかと思いますよ?それに、残業代までは出すつもりは有りませんし」
 そう言いながら、零は今日の日当ですと、桜子に封筒を差し出した。
「上京したばかりで、何かと要り用でしょう?今月は、日当として、毎日お渡しします。来月からは、ひと月まとめてにしますが」
 それは、桜子にとっては有難かった。――が、裏で、いつ辞めても良いようにと、考えているのでは無いか、とも思った。……それならそれで良い。桜子には、辞める気など毛頭無いのだから。
 しかし、それとこれとは話は別だ。桜子は、零の顔を見上げた。
「お給金は、有り難く頂戴します。勿論、残業代など、期待してもいません。ただ行きたいだけなんです!」
 頑固に言い張る桜子に、零は頭を振ってため息をついた。
「では、何が起こっても、自己責任ですからね。忠告はしましたから、後で、私に文句を言わないでください」
「分かりましたっ!何なら、誓約書でも書きましょうか?」
「其処までする必要は有りませんよ。あなたがご自分で承知しておられるのなら。
 ――では、出掛けますから、準備をしてください」
「……出掛けるって、何処へ?」
 桜子はキョトンとした。未だそんな時間では無い。確かに、定時よりは遅い時間ではあるが。
「お腹空いたでしょう。腹が減っては戦は出来ぬ、と申すではありませんか。それに、夜の武蔵野は冷えます。もう少し、暖かい格好に着替えられた方が良いのでは?
 この様な時間に、女性の一人歩きは物騒です。お付き合いしますよ」
 
 ……親切なのか、余計なお世話なのか。
 とにかく、桜子は零と一緒に、近くの定食屋で食事をし、桜子のアパートへ立ち寄る事になった。
 ――その間じゅう、周りの視線が気になって仕方が無い。……まぁ、田舎じゃないから、こんな事で噂になる様な事は無いだろうが、何しろ、零が目立ち過ぎるのだ。
 着物の上からコートを羽織り、襟巻を巻くと云う奇妙な格好をして、それがまた妙に様に為っているから困る。そしてこの容姿だ。通り過ぎる女性たちの視線を一身に集めて、しかし平然としている。――いや、気にも止めて居ないのか。
 それはともかく、……そんなのの隣に居る私が、見劣りするじゃない!
 
 アパートへ行き、
「少し待っててください。――覗いたら、警察呼びますからね!」
と扉を閉めると、桜子はホッと息をついた。――もうヤダ!
 初めは、見た目に少しばかり舞い上がったのも否定は出来ない。けれども、今日一日――いや半日、様子を見てただけで、あまり深い付き合いはしたくない類の人種だと云う事は分かった。
 親切だし気が利くし、礼儀正しいのは分かる。けれども、それも度を超すと、嫌味としか感じられない。それに、ペラペラよく喋る男は嫌いだ。その癖、妙に冷たいところがあったりする。――弥生の様な、複雑な事情の女性に、あんな冷たい態度をする事も無いだろう。
 そして何より、あの容姿!今晩ばかりは仕方無いが、金輪際、並んで街を歩くのは御免だわ!!
 
 桜子は、小さな箪笥の中からウールの着物を引っ張り出し、それに着替えた。その上からコートを羽織り、襟巻を巻き、帽子を深く被り、出来るだけ顔が見えないように隠す。――妙な格好だと云うのは零と同じになってしまったが、とにかく目立たない様にしたかった。
 その姿を鏡で見て、……ちょっと、探偵っぽいかしら、なんて事を思いながら、桜子は部屋を出た。
 零は廊下の壁に凭れて立っていた。
「お待たせしました」
と言うと、
「着物も、お似合いじゃあありませんか」
と返してきた。――いちいちそう云う空々しい事を言うから、余計に腹が立つのだが、本人は気付いて居るのだろうか?
 桜子は無言で部屋の鍵を閉め、
「行きますよ!」
と、先に立ってアパートを出た。
 
 市電で新宿へ出て、京王線へ乗り換え、小一時間。
 ――電車に並んで座りながらも、話す話題も無い為、ただ電灯の周囲を飛び回る二匹の蛾を眺めていた。……こんな時期に蛾なんて珍しいわね、とも思ったが、話すのも癪に障るので、言葉にはしなかった。
 
 武蔵野台の駅へ降りると、ぐっと冷え込んでいるのが良く分かった。――言われた通り、しっかり着こんで来て良かったわ、と、少し思った。
 
 そこから御影家へは、結構歩かねばならなかった。時刻は深夜に近い時間。しかも街灯も無い林道やら田んぼ道やらを行かねばならないので、さすがに一人では心細い。――こんな人でも、まぁ、一緒に居るってだけで心強いものね。
 木々のざわめきに飛び上がって零の腕を掴んだのを冷やかされながらも、ようやく話に聞いた竹藪と大きな屋敷が見えた時には、心底ホッとした。
 
 でも、零は御影邸へ向かうでは無く、竹藪の中の脇道へ入り、古びた祠の脇に来ると、
「さて、此処らで少しばかり待ちますか」
と、煙管を取り出した。
「――何を待つの?」
「扉が開くのを、ですよ」
「あなたが開けるんじゃなくて?」
「誰も、私が開けるなどと言っていませんよ?勝手に開いてくれるのを待つんです」
「…………」
 意味が分からない。だが、そう言われれば従う他無い。桜子は、祠の影にうずくまった。
 
 ……確かに、ここからだと、蔵の様子が良く分かる。目が慣れて来た事もあるだろうが、漆喰の白い壁が、サワサワと揺れる竹の向こうに、浮き上がるようにして見えた。
 ――それにしても、寒い。手が凍えて、息を吐き掛けながら擦り合わせた。
 すると、肩に何かが掛けられて、桜子は驚いて顔を上げた。――見ると、零が自分のコートを掛けてくれたようだ。
「風邪を引かれても困りますので」
 そう言って、煙管にマッチで火を点け、ゆっくりと燻らせた。
 
 ――やはり、私がついて来た事は迷惑だったに違い無い。桜子は、少し後悔した。
 探偵なんて職業、普通の月給取りとは違って、一筋縄で行かない仕事ばかりなのだろう。そんな風だから、少々冷たい位で無いと、やって行けないのかも知れない。
 ……今頃気付いたって、もう、後戻りなんて出来ないじゃない!
 
 しかし、意外にも、その時は直ぐにやって来た。
「――来ましたよ」
 零の声に顔を上げると、蔵の向こうにぼんやりと明かりが揺れているのが見えた。
「行きますかね」
 零は煙管の火を消し、袖口に仕舞うと、桜子を見た。
「――怖ければ、こちらで待ってて貰っても構いませんが」
 ……じょ、冗談じゃない!こんな処に置いてかれる方が御免だわ!
「い、行かない訳ないでしょ!」
 桜子は、虚勢を張って立ち上がると、ニコリと笑顔を残して歩き出した零の後に続いた。


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