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 大隅庸子が御影源三に嫁いだ時、源三には愛人が居た。
「――それが、私です」
「えっ……!?――じゃあ……?」
 桜子が目を丸くするのも無理は無い。
「――私の本当の名は、絹と申します」
 
 絹は、カフェーの女給をして居た頃、源三に見初められ、付き合いを始めた。そして、お互い、結婚出来るものと思っていた。
 ところが、源三の両親の死後、商売がうまくいかなくなり、多額の借金を背負った末、周囲から、取引先の娘との縁談を決められてしまった。
 しかし、絹は諦めきれなかった。――その思いは、源三も同じだった。
 二人は相談し、それを実行に移した。
 
 「――庸子さんが嫁いで来られたその日から、私たちは、庸子さんを、この蔵へ閉じ込めました」
「何て事を……!!」
 桜子が両手で口を覆った。
「そして翌日から、私はこの家へ入り、庸子と名乗り、源三の妻として生きる事となりました」
 
 おかげで、大隅家の援助を受け、御影家の商売は立て直した。――だが、大隅家へ庸子を連れて行く訳にはいかない。源三は、「庸子が流行り病を得た」と嘘をついて、盆や正月にも顔を出さないで済む様、口実とした。
 ――しかし、庸子をそのまま見捨てる程の鬼では無かった。付き添ってやって来た女中のお菊に、庸子の世話を命じた。
「お菊は、三食の食事を蔵へ運び、身体を拭き、寝具を整え、この蔵の中で庸子さんが不自由無く生活出来る様、働いてくれました」
 
 ところが、或る時。
「お菊が、私に言ったのです。
 ――食事を運んで行ったら、庸子さんが、蔵の中に仕舞ってある古い刀で胸を突いて、死んでいた、と……」
 
 ――零は、お菊から直接聞いていた。
「……庸子様は、大変お苦しみでした。当然ですわ。お嫁に来られたその日から、暗く冷たい、牢獄の様な土蔵に押し込められて、日の目を見る事も敵わず、人と触れ合う事も許されず、ただ、息をするだけの生活を強いられていたのですから。
 それでも、庸子様は、逃げようとはなさいませんでした。――実家に逃げ帰って事実を告げれば、源三様がお困りになる、と。
 ………庸子様は、源三様を、心から愛していらしたのです」
 
 「……私たちは、お菊に暇を出しました。――此の事を口外せぬ様、多額の口止め金を渡して」
 お菊は、金に困って居た。兄弟が多く、何とか学校へ行かせてやりたいと、年長の女である事から、幼い頃から女中として働きに出ていたのだ。
 お菊は、それを素直に受け取り、姿を消した。
 
 ふたりは、蔵の中を見に行く事が出来なかった。まるで蔵そのものを庸子の棺とする様に、錠前を増やし、封印した。
「――しかし、それからと云うもの、蔵の中から、妙な物音がする様になったのです。
 私も主人も、それはそれは恐ろしくて。あちらこちらを回って、効能があると聞くお札を買い集め、蔵の扉に貼りました」
 そんな処を見られては困るので、村人たちには、「神など居らぬ」と嘯いて、蔵の中に仕舞ってある祭りの道具を使わせぬ様にした。
「――でも、隠し切れぬものなのですね。
 弥生にだけは知られたく無かった。けれども、その弥生から、この蔵を開けたいと言い出されるとは……」
 
 絹はガクリと膝を落とした。
「若気の至りとは云え、何て惨たらしい事をしたのかと、私も主人も、この二十年、苦しんで参りました。
 こうなる事が、庸子さんの望みであるのなら、私たちは、受け入れなければならないのです。受け入れなければ……」
 絹は、声を震わせながら顔を覆った。
 
 「……では、私から、少し補足をさせて頂きましょう」
 絹の様子に目を向けつつ、今度は零が口を開いた。
「絹さんの仰っている事は、間違い御座いません。真実です。……しかし、少し足りない処があります。まず、なぜ、蔵に庸子さんの亡骸が無いのか。それから説明させて頂きましょうか」
 零は蔵の奥へと進み、窓を押し開いた。
 
「――ご覧ください。此処から、『黒が淵』が真っ直ぐに見えます。庸子さんは、毎日、この風景だけをご覧になって過ごしていらしたのではないか、とお察しします。
 そして、監禁生活に耐えかねたある日、お菊さんに仰ったのです。
 
 ―――殺して欲しい、と。
 
 しかし、お菊さんには出来ませんでした。その代わり、この窓を開き、お逃げくださいと、庸子さんに言いました。
 庸子さんは、言葉の通り、この窓から外へ出ました。――しかし、逃げはせず、あの沼へと、身を投げられたのです」
 
 絹と源三は、呆然とした顔を零に向けた。
「ですから、この蔵には、亡骸など、元より在りませんでした。
 ……ところが、この窓から庸子さんの最期を見届けたお菊さんは、お二人を恨み、嘘を告げたのです。――庸子さんがこの蔵で亡くなった様に。
 お菊さんは、罪悪感を持ったお二人が、この蔵を確認もせずに閉め切る事を予測していたのです。そして、敢えて窓を開けておいた。
 その結果、お二人はこの二十年間、居もしない悪霊に苛まれる事となったのです」
 
 一同は言葉も無く、ただじっと、零を見ている。
 零は、腕を組みながら、入口の方へ身を向けた。――只でさえ色の白い肌を、月の明かりが更に青白く、この世のものとは思えぬ色に染め上げた。
 零は続けた。
「それから、弥生さん、貴女の件です。
 財産を使い果たしても、買い物を止められない。これは、どう見ても普通じゃあありません。病気か、で無ければ、怨念か。
 ――怨念と考えれば、筋が通ります。
 庸子さんが亡くなるのと、弥生さんが生まれるのと、ほとんど同時期です。ですから、庸子さんの無念の思いが怨念となって弥生さんに取り憑き、財産を食い潰した。
 恨みの対象本人よりも、その方が一番大切にされている方に異変が起こるのは、良くある事です。そう考えると、辻褄が合う」
 
 笹の葉が擦れる音と零の声以外、何の音もしなかった。
 一同は、時が止まったかの様な静寂の中で、零の唇が動くのを待った。
「それが、庸子さんの復讐、と言ってしまえば、そうかも知れません。
 ――しかし、私は納得出来ませんでした。なぜなら、源三さんの幸せを願い、自分への仕打ちを顧みもせずに死を選んだ庸子さんがですよ?そこまでの遺恨を残しているのだろうか?……私には、どうにもそうは思えないのですよ。
 ……そうは思いませんか?―――お菊さん」
 
 突然名を呼ばれ、菊はビクッと立ち上がった。
 屋敷の物陰から様子を伺っていたのだが、零には気付かれていた様だ。
「――事務所でお話しした時から、此処へおいでになる事は予想していました。貴女も、そのおつもりで、私に話をして下さったのでしょう。……決着を着けるおつもりで。違いますか?」
 菊は、よろよろと月明かりの中に歩み出た。
「貴女は、庸子さんを救えなかった事を、心底悔やんでいた。そして、源三さんからお金を受け取った事も。
 ――家族の為には、あぁするしか無かった。それは、庸子さん自身からも言われていた事でしたし。……もし、私が死んだら、源三さんたちは口止め料を寄越してお菊さんに暇を出すだろう。私には何も出来なかった。世話をしてくれたお礼に、せめて、そのお金は受け取って欲しい、と」
「……えぇ、その通りです。私は、私は……」
 声が震えているが、自分ではどうしようも無かった。震える身体を抱いて何とか支えようとするが、耐えられず、膝から地面に崩れ落ちた。
「――貴女は、自分を責めた。なぜ、庸子さんを救う事が出来なかったか。なぜ、あの時、お金を受け取ってしまったのか、と。
 そして、その自責の念はやがて、源三さんと絹さんに対する強い恨みへと変わって行った」
 零はゆっくりと菊へ歩み寄り、その肩にそっと手を置いた。
「――弥生さんに取り憑いていたのは、庸子さんの怨念では無く、貴女の生き霊、ですね?」


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