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 門構えは立派だが、扉の隙間から閂が簡単に外れるのは知っていた。零は腕を伸ばしてそれを外すと、あっさりと御影邸へ侵入した。
「……ちょ、ちょっと!勝手に入っていいんですか!?」
 慌てて桜子が、声を殺しながらも叫ぶが、腕を引いてやると逆らうでも無く入って来た。――どうして女性と云う生き物は、これ程までに好奇心が強いのか。零は不思議に思う。
 
 蔵の場所は分かっている。塀沿いに庭を回って其方に向かうと、明かりが見えた。牛小屋の影に入り、その様子を伺う。
 ――蔵の前に、ふたつの人影が見えた。男と女。……庸子と、恐らく、夫の源三だろう。
 庸子がランタンで源三の手元を照らし、源三が鍵を開けようとしているようだ。
 
 ―――やっぱり。
 
 弥生からは、「鍵を無くしたから開かない」と聞いていたが、「開かない」のでは無く、「開けていない」が正解だ。
 静かに抑えるように、だか確かに、「カチッ」と云う金属音が聞こえた。……確か、錠は五つあると聞いた。あと、四つ。
 ――耳を澄ませて音を観察していると、五つ全ての鍵が開けられた事が分かった。それら全ての錠前が外され、源三が庸子と顔を見合わせて呼吸を整えているのが見えた。
「行くぞ」
 小さな声で、そんな言葉も聞こえた。
「……では、私たちも行きますか」
 零は物陰を出て、ふたりに声を掛けた。
 
 「お約束通り、鍵は開きましたよ。――時刻は零時を過ぎていますので、昨日宣言した『明日』という事にも為っています」
 
 すると、庸子がキャッと声を上げ、源三が大きく目を見開いて零を睨んだ。
「き、貴様、何者だ!?誰に断って入って来た!」
「おや?昨日奥様にはお伝えしておいた筈です。――蔵が開いたら、お祓いに参ります、と。……申し遅れましたが、昨日お邪魔いたしました神主、――いや、陰陽師です」
 屋敷の方から、タタタッと云う足音が聞こえた。それは、直ぐに零の前に姿を現した。――弥生だ。
 弥生は両親と零の姿を見比べて、
「……どう云う事?」
と目を丸くした。
 
 「――何も不思議は御座いません。
 初めから、鍵を無くしたのでは無く、敢えて開けていないと云う事は分かっていました。ですので、私が明日開けに来るとお伝えすれば、その前に、中に見られて困る様な物が在れば片付けてしまおうと、そうされるに違いないと思っていました。
 それだけの事です」
 ……後ろで、桜子の「詐欺ね」と言う声が聞こえたが、零は聞こえない振りをする事にした。
 
 「――では、お約束通り、中を見せて頂いて宜しいでしょうか?」
 零が言うと、周囲の空気が一挙に凍り付くのが分かった。その中を、蔵に一歩近付く。すると、源三が零の前に出た。
 ――その手には、合口が握られていた。
 ランタンの光を反射して、銀色に光る刃物を零の喉元に当て、凄味のある声で唸った。
「帰れ。そして金輪際、俺たちの前に姿を現すな」
「ところが、そうはいかないのですよ」
 しかし、零は冷ややかな目で源三を見返し、煙管で合口を払った。
「依頼人様から、先払いで調査費を頂いてしまって居りまして。既に家賃や何やらで大半を使ってしまっていますので、返金も出来ないのです。詐欺だと訴えられるのも嫌ですのでね」
 充血した目で睨む源三を余所に、零は蔵の前へ向かった。
 
 ――その背中に、源三が刃を構えて腕を振った。
「キャーッ!!」
 弥生と桜子の悲鳴が同時に響いた。
 しかし、零は慌ててなど居なかった。サッと身を翻して凶刃を避けると、その腕を掴んで捩じるように振り下ろした。
 すると、源三の身体は弧を描いて宙を舞い、背中から地面に落ちた。――さすがに息も出来ないのか、「ウッ……」と呻いて、目を白黒させている。
「――物の怪を斬るおつもりでご用意されたと思いますが、其の様な物では、物の怪は退治出来ません。大人しく、私どもにお任せください」
 零は、力を失った源三の手から合口を取り上げ、鞘に納めると、桜子へ差し出した。
 「ヒッ……」と言いながらもそれを受け取った桜子は、源三を介抱しようと駆け寄った。
 
 呆然とその様子を眺める庸子と弥生の前を通り過ぎ、零は、扉の前に立った。
 
 扉には、大小新古、様々なお札の類が所狭しと貼られていた。特に、扉と壁の隙間、観音開きの扉と扉の間には、まるで目張りをするかの様に、隙間無く、呪文が書かれた紙切れが、張り重ねられている。
 
 ―――チリーン。
 
 その時、鈴の音が聞こえた。澄んだその音は、――零の耳元から聞こえる。
 髪留めにぶら下げてある、あの鈴だ。……普段は鳴らない。風に吹かれても、源三を捩じ伏せた様に激しく動いても、決して音を鳴らす事は無い。
 
 しかし、「物の怪」が近くに居る、その時にだけ、鳴る。
 
 零は、扉に手を掛けた。
 力を入れると、お札がミシミシと音を立てて剥がれていくのが分かる。――しかし、あまりに数が多く、ちょっとやそこらでは開きそうも無い。
 零は体重を掛けて、扉を思い切り引いた。
 
 すると、剥がれ、引き裂かれたお札が宙を舞い、扉が動いた。
 中から、湿った空気が流れ出て零を襲った。何とも言えぬ黴臭い臭気に思わず目を閉じる。――しばらくそのまま息を止め、空気の流れが少し収まるのを待って、零は目を開いた。
 
 ―――しかし、其処に在ったのは、朽ちた土蔵の風景、それだけだった。
 
 窓の隙間から月明かりが差し込み、ほんのりと室内を照らしている。古道具の類が散乱しているのがぼんやりと見えるが、そのどれもが、半ば腐りかけているように見えた。
 
 と、突然。
 その中から、ふたつの光る目が飛び出した。それは、床に近い部分を這う様にこちらへ突進して来て、零の脇を通り過ぎ、弥生の前へ飛び出た。
「キャッ!!」
 驚いた弥生が腰を抜かす。――しかし、ランタンと月明かりの中に見えたその姿は、狸そのものだった。狸は、弥生の前で方向を帰ると、一目散に屋敷の外へと逃げて行った。
「……な、なんだ、タヌキか……」
 桜子も同じように腰を抜かしている。
 
 「――ご覧になられたでしょう?あれが、この蔵に棲む『物の怪』の正体です。
 ……どうやら、この開いた窓から、入り込んでいた様ですね。おかげで、雨や風も吹き込んで居たのでしょう。だから、中でタヌキが歩く音やら、中の物が朽ちてそれが崩れる音やらが聞こえたり、風が強い日には、物が倒れる音がしたり、風が扉を内側から叩く音がする事もあった。
 ……残念ながら、この状態ですので、財産的に価値の残っている者は無さそうですね」
 そう言い、零が目を向けると、庸子と源三は蒼白な顔を見合わせていた。
「な、何だ、そんな事だったの。――よ、良かったわ、原因が分かって。……じゃあ、私はこれで……」
 弥生がのろのろと起き上がり、屋敷の方へ去ろうとした。
 それを、零は引き留めた。
 
 「お待ちください。――問題は、なぜ、『窓が開いていたのか』、と云う事です。
 この様にしっかりとした窓が、そうそう簡単に開く筈が在りません。……何者かが、内側から開けない限り。
 それが、本当の『物の怪』の正体。――違いますかな」
 
 空気が、鉛の様に重い沈黙に満たされた。
「私めの口からお話しすべきですか?――それとも、源三さん、庸子さん、何れかの口から、弥生さんに真相をお話しになりますか?」
 再び、源三と庸子は顔を見合わせた。やがて、源三がガックリと首を落とした。それを見て、庸子が重い口を開いた。
 
 「――仕方ありません。私から、お話し致しましょう」


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