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オリジナル小説のダストボックス

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 階段を上がったところにある扉の横にも、下のものと同じような看板があった。
 ここで間違いようね。
 桜子は、コートと帽子を整え、背筋を伸ばしてノックをした。
「すみません。チラシを見て来ました」
 すると、中から声が聞こえた。
「開いてます。どうぞお入りください」
 柔らかいトーンの男の声だった。桜子は、少し緊張しながら、そっとノブを回した。
 
 室内も、外観に違わず古風で落ち着いた雰囲気だった。古びているが手入れのされた家具類が並び、奥で薪ストーブの上に置かれた薬缶が湯気を出している。
 ――しかし、先程の声の主の姿は無い。
 あれ?と思い、桜子は扉を閉めて立ち止った。
 
 すると、正面の大きな机の方から声が聞こえた。
「ご依頼ですか?申し訳御座いませんが、今、手が離せないのです。そちらの椅子に掛けて、少しお待ち頂けませんか。
 ――あ、その前に、真実をお知りになる覚悟がお在りでしたら、ですが」
 ……どうやら、桜子を客と勘違いしているようだ。――しかし、後で付け加えた一言は、どういう意味だろう?
 とりあえず訂正しないと、と、桜子は机へ近付いてみた。
 机の向こうを覗くと、屈み込んで机の下へ腕を突っ込んでいる人物が居た。
「あの……」
 しかし、桜子の呼び掛けは、その人物が急に起き上がった事により遮られた。
「取れました。お待たせして申し訳無かったです」
 立ち上がり、振り向いたその姿を見て、桜子は息を呑んだ。
 
 ――な、なんて、イイ男!
 
 ほっそりとした体躯に乗っかった、小振りの顔は色白で、切れ長の目が涼やかな視線を桜子に送っていた。そんな顔をしているから、緩く束ねた長い髪に、粋に引っ掛けた柄物の着物も嫌味が無く、良く似合っている。
 歌舞伎役者みたいだわ。――それも、女形。
 草履の鼻緒を直してあげた旅回り一座の若手とは、全然違う。小粋で洒脱で、しかも洗練されていて……。
 桜子は、思わず見惚れてしまった。
 
 「寒かったでしょう。顔が赤いですよ。茶でも淹れますから、そちらへどうぞ」
 桜子は、言われて初めて、顔が熱くなっている事に気付いた。きっと、頬も紅潮しているのだろう。
 あら嫌だ、私とした事が……。
 恥ずかしくなり、頬を両手で隠しながら、促されるまま応接の長椅子へと向かった。帽子とコートを脇のコート掛けへ掛け、見られぬよう、身だしなみと髪を整えた。
 ……すっかり、客じゃないと訂正する事を忘れている。
 
 「――外は、ご大喪の行列で大変じゃあ有りませんでしたか?私は、憲兵に職務質問をされても、この様な仕事をしているでしょう?どれだけ説明しても納得してもらえず、留置場に放り込まれた事も一度や二度じゃ無いのです。ですから、こう云う時には、外へ出ない事に決めています」
 男は薬缶の湯を急須に注ぎながら、ひとりで喋っていた。
「今、もうひとつ抱えている仕事が有りましてね、本来ならば、そちらに行きたい処なのですが、今日は、そちらはお休みという事にさせて頂きました。――どうぞ」
 桜子の前に、皿に乗せられたカップが差し出された。――これが、西洋のティーカップという物なのだろうか?上に向かって口が開いた磁気の器に、取っ手が付いている。
 その中で、見慣れぬ赤っぽい液体が、湯気を立てながら揺れていた。……良い香りがする。桜子は、それに口を付けてみた。――が、ただ渋いだけで、思わず顔をしかめた。それを悟られないようにひとつ咳払いをして、カップを皿に戻した。
 
 「――改めまして。私は、こう云う者です。宜しくお願い致します」
 男は、桜子に名刺を差し出し、正面の椅子に掛けた。
 そこには、『心霊探偵 犬神 零』と書かれていた。……この若さでありながら、この事務所の主であるようだ。
「――で、ご依頼の件は?」
 そう言われて、桜子はようやく焦った。
「あ、あの、……すみません、私、お客じゃありません。このチラシを見て……」
 慌ててポケットから、チラシを取り出し、テーブルに置く。
「――あぁ、そうでしたか。それは失礼しました」
 零は、切れ長の目を細め、ニッと口元を緩めた。……駄目、そんな顔をされたら、本当に恋に落ちるかも。
 
 それを誤魔化す様に、桜子は立ち上がった。
「わ、私、椎名桜子と申します。東京に出て来たばかりで、右も左も分からぬ不束者では御座いますが、何卒、宜しくお願いします!」
 ……何だか、許嫁の両親にする挨拶みたいになってしまった。それよりも、裸足なのを思い出し、バレやしないかと、ドキドキして再び顔が熱くなった。
 しかし、何とか気付かれては居ないようだ。
「そんなに畏まらないでください。――どうぞ、お座りになって」
 零は桜子を座らせると、髪を弄りながら喋り出した。
「――いや、なかなか応募が来てくれなくて、どうしようかと思っていたのです。
 こんな、文明の発展を一番に進めて行こうと云う世の中でしょう?だから、私のような仕事をしている者に頼ろうとする人が、めっきりと減りましてね。従業員の募集にしたって同じです。きっと、如何わしいとか胡散臭いとか思われるのでしょう。
 しかし、人の世は、今も昔も変わりは無いのです。このまま、人の心から『畏怖』という念が消えていったら、その事の方が、私には大変な事のように思われるのですけどね」
 ……何だか、桜子にはよく意味が分からない。しかし、客では無くとも、桜子を歓迎はしてくれているようだ。桜子はホッと息をついた。
 
 そして、零の手が髪から離れた時、髪留めに今まで無かった物が付いている事に、桜子は気付いた。――鈴?
「……あぁ、これですか。先程、机の下に転がり込みましてね。取るのに大変でした」
 桜子の視線に、零はそう答えた。
 ――しかし、鈴なんかを耳の近くにぶら下げていて、煩く無いのだろうか?
 
 「それで、仕事の内容ですが……」
「探偵さん、ですよね?江戸川乱歩は読んだ事があります。明智小五郎みたいなお仕事をされているのですか?それならば、私は小林少年みたいな……」
 桜子は、ここに来る迄の市電の中で考えていた。探偵という特殊な職業に理解のある事を主張した方が、採用され易いのでは無いか。それを言ってみたのだが……。
 零は、ゆっくりと首を左右に振った。
「あれは、探偵という職業を世の中に勘違いさせている。事件を捜査し、解決するのは、警察の仕事です。警察が、そんなどこの馬の骨だか分からぬような輩を、捜査に参加させてくれるとお思いですか?
 探偵の本来の仕事は、依頼人の方の困り事を解決する、言わば、何でも屋のようなものなのです。
 ――それに、あなたは、もうひとつ勘違いをしておられる」
 男は、指先でチラシを指し示した。
「ここ、『探偵社』の文字の前に、『心霊』と書いてあるでしょう?
 要するに、私が相手をするのは、怪盗でも殺人犯でも無く、『目に見えぬもの』なのです」
「はぁ……」
 
 桜子は、どう返していいのか分からなくなった。――こんなに見た目は良いのに、頭が少しおかしいのではないか、そんな風にも思った。
「信じておられぬ様ですね。それはそれで構いません。
 しかし、地面の下を鉄道が走り、天を見上げる程の建物が立つ世の中ですけれども、中には、科学では説明できぬ、『物の怪』たちに悩まされておられる方もいらっしゃるのです。
 そういった方をお救いするのが、私の仕事。……そういう風にご理解下さい」
「――要するに、霊媒師とか……」
「いえ。物の怪が引き起こす禍を取り除くだけでなく、人の心、それをも解き解さねば、本当の解決とは申せません。そういう意味での、『心霊探偵』です。
 大昔は、『陰陽師』とも呼ばれていた様ですがね」
「はぁ……」
 余計に話が分からなくなってきた。
「そして、貴女には、その様な事を手伝って頂くつもりは有りません。
 事務所の雑用、電話番だとかお茶出しだとか掃除だとか、そういった事をして貰いたいのです」
 ――まぁ、それならば問題は無さそうだ。
 
 桜子は、生まれてこのかた、幽霊というものを見た事が無い。噂話ではいろいろ聞くけれども、そんな物は何かの見間違いだと思っている。
 だから、零がそんな話をし出した時には、此処での仕事を諦めなければならないかと思った。けれども、ただの雑用でお給金が貰えるのなら、主が胡散臭かろうがどうしようが、桜子にとっては全く構わない。
 強いて言えば、「探偵」と聞いて、少し冒険活劇の様な仕事を期待していたのだが、普通に考えれば、そんなのは、小説の世界だけの事であって、現実に起こるなんて考えられない。
 ――それに、中身がどうであれ、こんな良い男の傍で働けるのなら、悪くは無いわ。
 桜子は無意識にニヤニヤしていた。
「どうかされましたか?」
 零に聞かれ、桜子は慌てて咳払いをして誤魔化した。
 
「いいえ。――それより、ひとつだけ、申し上げておきたいのですが……。
 私、家出して田舎を飛び出して来て居るのです。――それでも構いませんか?」
 すると、零は少し驚いた様な顔を見せた。
「此方としては全く構いませんが……。
 東京でご婦人の独り暮らしは物騒でしょう?宜しければ、私の家の部屋をお貸ししても構いませんよ?――と言っても、この事務所からして借り物ですので、私から大家さんに頼んでみる、という形になりますが」
 いきなりそんな事を言って来るとは……!嫌だわ、そんな……。でも此処は、尻軽女だと思われてはいけないわ。丁重にお断りして……。
「いえ、大丈夫です。今のアパートメントは、大家さんの部屋のすぐ脇ですし、大家さんにも親切にしてもらっていますので」
「そうですか。其れならば良いです」
 ――あまりにあっさりと引き下がられたので、桜子は逆にガックリした。
 こんなに良い顔をしながら、期待を持たせる様な事を言って、そしてあっさり振るなんて、――罪な男ね。
 
 何となく熱が冷めたような気がして、桜子はさっさと話を進めようと思った。
「――では、私を雇って頂けると考えて宜しいのですね?」
「ええ。先程も申しました通り、他に応募にいらした方も居ませんので、貴女で決まりです」
「有難う御座います。では、何時から?」
「其方が宜しければ、明日からでもお願いしたいです。
 先程も申しましたが、今ひとつ仕事を抱えておりまして、事務所を空ける事が多いのです。この物騒な世の中ですし、空家にしておくのも気掛かりでしてね」
 ……まぁ要するに、早いところ留守番が欲しいという事か。
 まぁ、何でもいいや。お給金さえ貰えるのなら。
 桜子は礼をして、明日から宜しくお願いしますと言い残し、出て行こうとした。
 
 すると、零が呼び止めた。
「それから、こちらでは、無理に洋装をしなくても良いですよ。靴が慣れないのでしょう。下駄でも草履でも構いませんから。私だって、ほら」
 そう言って、白足袋に高下駄という足元を見せた。
 ――それよりも、裸足なのを気付いていたのね!恥じらいのあまり、桜子の顔に血が昇るのが分かった。何で、そんな余計な事を言うのよ、黙って見過ごしてくれても良かったじゃない!
 千年の恋も冷めるとは、こういう事かしら?顔ばかりは良くても、気が利かないにも程があるわ。
 しかし、折角決まった仕事を、そんな事で投げ出す気は無かった。――逆に、意識し過ぎないで済むから、清々すると思い直した。
 桜子は、憮然とした顔で、「どうも」と挨拶して、事務所を出た。


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【 拍手について 】
 これまで、拍手はブログ付属のものを使用していましたが、これからは、HPと同じFC2拍手を利用する事にしました。どうぞ、こちらもご覧くださいませ。
 本日、「犬神心霊探偵社」バージョンをUPしました。 「無幻の匣」バージョンとランダムで出てきます。
 久々に絵を描いてみました(こっちのブログでは初かも……)。相変わらず、適当に誤魔化してる感満載ですが、宜しければ見てやってください。
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 福島の発電所が大変な事になっています。
 これ以上の被害が出ない事を切に願いつつ、脱原子力を奨めていくべきだと改めて思いました。
 とりあえず、「ヤシマ作戦」を地味に実行しております。
 皆様も、できる限りの節電をしていきましょう!
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