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 零の手の中の短刀が光った。
 次の瞬間。根付が火の玉となり、床に落ちた。それは床に近付く程に勢いを増し、見る間に姿を変えた。
 ――そして、床に届いた瞬間、火は吹き消え、犬の形が現れた。
 
 白い毛並みの其れは、犬と云うよりも、狼に近い姿をしていた。眼は燃えるように赤く、所々、炎に似た毛色をしている。
 その頭を低く伏せ、牙を剥き、唸り声を上げた。
 
 その視線の先で、蛟が鎌首をもたげた。口を大きく開き、鋭い牙を見せ付け、威嚇の姿勢を見せる。――しかし、先程桜子に斬られた傷は、確かにその体力を奪っていた。
 
 犬神は蛟の首元に飛び掛かった。蛟は噛み付こうと身体を捻るが、一瞬だけ、犬神の方が早かった。鱗に包まれた太い胴に牙を立てられる。其れから逃れようと蛟も暴れるが、犬神の力の方が勝っている。傷を広げるだけで、抜け出せるものでは無かった。
 その時、犬神の身体から再び炎が現れた。すると其れは、吸い込まれる様に蛟の身体に入って行き、そして消えた。
 
 その後、蛟はこれまで以上に悶えた。苦しそうにシャーッと息を吐き、胴と言わず尾と言わず、床にその巨体を打ち付けながらのたうった。
 だがやがて、力尽きたのか、ぐったりと床に身を投げた。
 
 零は、それに一歩近付いた。
 
 次の瞬間。
 
 こちらに向けていた蛟の口元から、何やら黒い霧の様な物が勢い良く飛び出した。其れは、宙で真っ黒な蛇の形に姿を変え、一直線に零に向かった。
 零は腕を振った。すると、手の平から無数の護符が飛び出した。それらは宙を飛び、蛇の形の霧に、巻き付く様に張り付いていく。
 護符に拠って動きを封じられて尚、蛇の邪気は、零へ怨恨の視線を送っていた。
 
 零は、この時になって初めて、短刀を鞘から抜いた。
 
 一尺程の鞘に収まっていた筈の短刀は、だが抜いてみると、二尺を裕に超える長さだった。妖幻な紫の光を放つ其れを、零は黒い邪気へと構える。
 
 「――其の不浄なる魂、斬らせて頂く」
 
 零は蛇の邪気の大きく開いた口に、切先を差し込んだ。そのまま、足を前に踏み出し、筒状になった護符の束を真二つに斬り裂く様に、刃を動かす。
 
 何とも言えぬ呪詛の叫びを残して、霧は消えた。
 
 後には、鋭く斬られた護符だけが大量に、はらはらと宙を舞った。
 
 
 
 「―――終わったようだな」
 木箱の上から、晴明は見下ろしていた。
「はい」
 しかし零の視線は、床に丸まってぐったりとしている、白く美しい蛇に向けられていた。首や胴から血を流し、痛々しい姿をしている。
 
 その脇に、小さな火の玉が転がっていた。
 零は刀を鞘に納めると、それに歩み寄り、手に取ってフッと息を吹き掛けた。するとそれは、ボウッと大きく燃え上がり、犬の姿に形を変えた。
「……ご苦労様でした、小丸。何も上げられる物はありませんが、せめてもの気持ちです」
 零はその前に屈み、犬神の頭や首筋を、優しく撫でてやった。犬神は気持ち良さそうに首を伸ばし、されるが儘になっている。
 
 その様子を見て、晴明は渋い顔をした。
「犬神などと云う下等な術に頼って居るから、お主は進歩せぬのだ」
「そうは仰いますが、私は小丸を捨ててまで、進歩をするつもりは有りません。――たった一人の、家族ですから」
 零が言うと、晴明はフンと鼻を鳴らして立ち上がった。そしてトンと床に降り立ち、
「拙者は疲れた。帰るぞ」
と言い、……ぐったりとしている蛇を抱きかかえた。
「――その者を式神の器に為さるおつもりですか?……それは、お止めください」
「なぜじゃ?この傷では、このままにしておけば死んでしまうぞ?その方が可哀そうでは無いか」
「あなた様なら、其の傷を癒す事くらい、朝飯前でしょう」
 零はそう言いながら、腕を伸ばした。すると、犬神は炎となって消え、その手の中に髑髏の根付が残った。其れを短刀の鞘に取り付け、零は立ち上がった。
「そうは言うが、拙者は疲れているのだ。無理を申すな……」
 晴明は再び渋い顔を見せたが、零が睨んでいるのを見て、ため息をついた。
「――分かった。やればいいのであろう、やれば」
 
 そう言い、晴明は人形を取り出し、呪文を唱えた。
「十二天将が一、天后、出でよ」
 そして、人形を零に向かって投げた。――零の身体が光に包まれ、光が去ると、其処には碧い衣を纏った天女が立っていた。
「……不本意ではあるが、其の蛇の傷を癒してやれ」
「あらまぁ、晴明ともあろう者が、蛇の様な下等を治癒せよなどとは、珍しい事」
 天后は、晴明にフフフと微笑み掛けた。そして、羽衣をそっと蛇に掛けると、そのまま、床に吸い込まれる様に消えた。
 
 後に残された羽衣が光の粒となって消えた頃には、蛟は首をもたげて晴明を見ていた。刀傷も牙の跡も、すっかり消えて無くなっていた。
 
 「――これでいいか?犬神使い」
 晴明が振り向くと、床にうずくまっていた零が立ち上がった。
「……はい、有難う御座います」
「ならば、拙者は帰る……」
 晴明は扉に向か――おうとしたのだが、急に身体を支えられなくなり、床に崩れ落ちた。
 
 
 
 「……やれやれ。だから、ご無理を為さらぬ様にと申したではありませんか」
 零は、床に広がった黒袍衣を抱え、表に返した。――すると、セーターを着た少年が現れ、袍衣は霧の様に消えた。少年――ハルアキは、零の腕の中で、静かに寝息を立てている。
 度重なる式神の召喚で、霊力を使い果たしたのだろう。
「さてさて、如何したものでしょうか」
 零は、同じく眠る桜子とハルアキを見比べた。……しばらく、母屋を借りて休ませて貰うしか無さそうだ。
 
 背後に視線を感じて振り向くと、蛟がこちらをじっと見ていた。その南天の様に赤い目は、物言いたげに零を見詰めている。やがて蛟は目線を外し、窓に這い寄ると、スルスルと壁を乗り越え、竹藪の向こうに消えた。
 
 ――二度と、人前には姿を現さぬ事ですぞ。
 
 心の中でそう話し掛け、零はハルアキを背負って立ち上がった。
 しかし、さすがに桜子と二人を抱え上げるのは厳しい。……迷った末に、ハルアキを下ろし、桜子を抱き上げた。――あの御方なら、少し位ひとりで寝かせて置いても大丈夫だろう。
 
 零は、蔵から出よう――として、ふと思い付いて蔵に戻った。そして、窓に向かった。
 窓の外は、薄っすらと白み始めていた。竹藪の向こうの暗い水面に、靄が立ち上っているのが見える。
 この風景がこの先も続く事を祈りつつ、零は窓を閉めた。
 
 ……こうして、御影家から、「物の怪」は消えた。


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