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碧井 湊
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 ―――目が覚めると、見覚えの無い天井の模様が見えて、桜子はキョトンとした。
 ……此処は何処?
 布団を除けて身を起して、キョロキョロと周囲を見回した。すると、隣でハルアキが寝息を立てて居るでは無いか。
 ………は?
 何で、私がこいつと並んで寝てるの?
 
 「――お目覚めですか」
その声にビックリして振り返ると、壁に凭れて零がこちらを見ていた。
 ――零の顔を見て、ようやく思い出した。
 
 ……確か、依頼人の御影さんとか云うお宅にお邪魔して、物の怪に取り憑かれた弥生さんが暴れ出して、平安時代の人みたいなのが入って来て、猫が虎になって手が蛇になって……。
 ――いや、あり得ない。絶対にあり得ない。夢でも見ていたのだろう。
 
 桜子は頭をブンブン振ってみた。……どうやら、今のこの状況は夢では無く、現実の様だ。
「此処は御影さんのお宅です。桜子さんとハルアキが眠ってしまいましたので、部屋をお借りしていました」
「……あら、嫌だ」
 仕事の最中に居眠り?――これで二回目じゃない。どうなってるの?私。
 あまりの気まずさに赤面して、桜子は頬を手で押さえて顔を伏せた。
「お目覚めでしたら、そろそろ帰りましょう。何時までもお邪魔している訳にはいきません」
「――何処へ?」
「何処へって、家にですよ」
「はぁ……」
 ……駄目だ。頭がぼーっとする。これは早く帰って、寝直した方が良さそうだ。
 
 挨拶に行くと、菊が弥生の介抱をしていた。
 零たちを見ると、無言で深々と頭を下げ、ハイヤーの手配をしてくれた。――正直、助かった。零だってそうに違い無い。ハルアキを背負いながらあの距離を歩くのは、かなり辛いだろう。
 庭に出てハイヤーを待っていると、木の陰に黒い猫の姿が見えてハッとした。
「――この猫……!?」
 ハルアキの飼い猫じゃあ無いの?金色の目が桜子のそれと合うと、サッと警戒する格好を見せたから、間違い無さそうだ。――でも、何でこんな処に居るの?
 考えれば考える程、訳が分からない。分からない事を考えていても仕方無いので、桜子は何とか猫を捕まえ、やって来たハイヤーに乗り込んだ。
 
 その時になって、ようやく、零の着物の袖が破れている事に気付いた。――あら嫌だ、腕に包帯が巻いてあるじゃない。着物に血の跡まで付いてるし……。怪我でもしたのかしら?
「どうなさったんですか?その包帯」
「――覚えて居られなければ、それで良いです」
「………?」
 ますます訳が分からない。
 しっかり休めば、少しは頭がスッキリするかもしれない。今日は一日お休みを貰って、アパートでゆっくり休もう。桜子はそう決めた。
 
 
 
 新宿の駅を降りると、桜子は、
「今日はお休みをください。風邪を引いた様ですので。……でも、明後日からは必ず出社しますので。――では」
と言い、朝の雑踏へと呑み込まれて行った。――電車の中で散々居眠りをしていたので寝惚けているのか、猫を抱えたままだったが、まぁ、いいだろう。憑き物を祓った後は、酷く疲れると聞く。そっとしておこう。
 
 零は、市電の駅へ向かった。――子供とはいえ、十歳にもなる少年をおぶって歩くのは、結構しんどい。しかし、捨てて行く訳にもいかない。背負ったハルアキをヨイと担ぎ上げ、人混みの中を進んだ。
 
 「――なぜ、拙者を置いて、あの者だけを連れて行ったのだ?」
 背中から声がした。……起きていたのか。
「……妬いて居るのですか?」
「馬鹿言え!お主の様な半人前が、無謀な事をするのを、見て居れぬから申しておるのじゃ。……そなたに何かあれば、拙者の住処が無くなるのでな」
「左様ですか」
「これからは、己の実力を十二分に弁え、物事に当たる事じゃ」
「其れはお互い様でしょう」
「――な、何だ?拙者に向かって、よくも其の様な口が叩けるな!」
「それだけ喋られるのなら、下りて歩いて頂けませんか?」
「嫌じゃ」
「…………」
 
 しかし、ハルアキが自分で背中にしがみ付いてくれるので、多少は楽になった。
 ハルアキは、零の肩に頬を預けながら言った。
「……ところで、あの蛟は、なぜ、あの様な事を仕出かしたのだ?」
 
 ――それは、零も考えていた。
 結局のところ、悲運の庸子は、この事件には無実だったと思う。全ては、菊の庸子へ対する忠誠心と、蛟の偏った思いが為した業……。
 蛟に取り憑かれた弥生に首を締め上げられた際、蛟の意識を覗いた気がする。
 ――拠り所の無い孤独感。仲間を失った悲しみと、人間への怒り。――その裏返しの、強烈な人間への憧れ。それが、蛟を動かした。
 庸子の思いは、その引き金に過ぎなかった。
 
 「……要するに、人間が文明と云う名に於いて仕出かした『罪』に対する報い、では無いですかね」
 
 ……そして、人間が人間たる所以である「着物」に対して蛟が抱いた、異常なまでの執着心が、御影家を更なる悲劇へと導いた……。
 
 「黒が淵は、美しい沼です。あの蛟が、其れを体で示しています。――あのまま、美しい姿を留めてくれる事を、願うしか有りません」
「拙者は、あの蛇を飼いたかった」
「どうせろくな事には使わないでしょう?――あれは、あのまま、あの沼に居る事が相応しいのです。愚かな人間どもがあの沼を壊そうとした時にこそ、その力を使えば良かったものを」
「そなたは、人間の味方をしているのか?それとも、物の怪の味方をしておるのか?」
「さぁ、分かりません。真っ当な方から見れば、私自身が物の怪だと思われるでしょうし」
「良く分かっておるでは無いか」
「……落としますよ?」
 
 駅に着いたが、人手が多く、列に並んで待たなければならなかった。零は、この様な時間に街を歩いた事が無いので、些か閉口した。
 しかし、ハルアキは下りてはくれない。背中で足をブラブラさせながら、思い出した様に言った。
「そう言えば、あの女子、本人は気付いて居らぬ様だが、類稀な憑依体質なのだな。――だから、幾人も面接に来て居た者を断ってまでも、あの女子を雇ったのか?」
「晴明様ともあろう御方が、今頃お気付きになりましたか?――桜子さんを初めて見た時、何やら運命めいたものを感じましたね。あれ程、物の怪に好かれる方は、東京じゅう探しても、まず見付からないでしょう。……ご本人がそれに気付かれて居ないのは、幸せな事です」
 
 ようやく乗り込んだ市電で、やっとおんぶから解放されたが、ハルアキが座席に上がり込んで窓の外を見ようとするものだから、今度は膝に乗せて抱えなければならなくなった。
「――もう少し、大人しくして頂けませんかね?」
「そなたは何度も乗って居るかも知れぬが、拙者はこの姿でこう云う乗り物に乗るのは初めてじゃ」
「なら、どうやって我々の後をついていらしたのですか?」
 確かに、行きの道程では、ハルアキの姿に全く気付かなかったが。
「――そなたらの周りを飛び回る、蛾に気付かなかったか?」
 ……言われてみれば、電車の中で、季節外れの蛾が二匹、飛び回っていたのを見ている。――ハルアキが自身と猫を、蛾の姿を変え、付いて来ていたのか。
 確かに、そんな「無賃乗車」ばかりしているから、「人間」として乗り物に乗るのは、新鮮な体験なのだろう。
「……それにしても、仲良く飯を食っていたかと思えば、あの女子の住まいに行くでは無いか。そなたも物好きじゃと思ってみておったのだがの」
「残念でしたか?」
「何が?」
「………いいえ、別に」
 
 電車に揺られていると、否が応でも眠気が襲って来る。少しだけ――と、目を閉じたが最後。零の意識は眠りに落ちた。
 
 
 
 ―――数日後。
 御影弥生が犬神心霊探偵社を訪れた。
 
 「――本当に、お世話になりました」
 これまでとは打って変わった、柔らかい表情で、弥生は頭を下げた。
 生まれて直ぐから物の怪に取り憑かれた為、本来の人格がうまく働いてくれるか、零は心配だったが、この様子なら、問題は無さそうだ。
 
 「警察にも相談しましたけれど、父と母のした事は既に時効に当たるし、庸子さんと云う方が亡くなったのは、菊さんの証言が有る以上、自殺に間違い無いので、父と母を罪には問えない、との事でした。
 それと、黒が淵で、庸子さんの捜索もお願いしたのですが、結局、見付かりませんでした。
 しかし、この様な事になった以上、これまでの様に過ごす訳には参りません。今の家は引き払い、母の実家の在る北陸へ引っ越す事になりました。
 今日は、その挨拶がてらに……」
「そうですか。――これからも、色々と大変な事は有るでしょうけれど、弥生さんには何の罪も無いのです。どうか、自信を持って、お過ごしください」
「有難う御座います」
 弥生は椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
 
 それから、弥生は、事務所の室内をキョロキョロと見回した。
「……あの、あの時、もうひとり、応援の方がいらしたと、菊さんから聞きましたが……」
 ――晴明の事だ。だが、説明すると長くなるし、説明した処で分かって貰えるとも思えない。当のハルアキは、何時もの様に、扉の向こうでひとり、何やらやっている。
 
 あの後、実はちょっとした後日談がある。
 居眠りしてしまった零の懐から財布を抜き取ろうとしていたスリを、ハルアキが捕まえたのだ。――零は眠っていた為、その現場を見てはいないが、また妙な術を使ったに違い無い。
 しかし、悪人を懲らしめた事に変わりは無く、警察から表彰を受けるわ、新聞社の取材は来るわで、一躍有名人に成ってしまった。
 十歳の子供の英雄談は、多くの人に知れ渡り、逆にハルアキは、余計に外へ出る事が出来なくなった。――ハルアキの「秘密」を知られたら、その方が厄介な事になるからだ。今は、騒動をやり過ごし、忘れ去られるのを待つ事が、賢明な策だと、零も思う。
 
 だから、弥生にも、下手な事は言えない。零は誤魔化す事にした。
「――あぁ、あれは、四国に住む私の兄なのです。丁度、東京見物に来て居たので、少し手伝って貰いました」
「そうなのですか。出来れば、その方にもお礼をしたいのですが……」
「折角ですが、残念ながら、昨日、四国へ帰りました。今度会った時に、私から伝えておきましょう」
「お願いします。――あと、それから、不躾な事を言いますが……」
 
 そう言うと、弥生は顔を赤くした。
「………あの、零様は、所帯はお持ちなのでしょうか?」
「いいえ、身軽な独り者です」
「そ、そうなのですか。――あの、私が嫁に行って東京へ残れば、父の商売も、続けられるかなとか、そんな事を考えたりして……」
 
 弥生が顔を伏せていると、お茶のお代わりを出しながら、桜子が言った。
「悪い事は言いません。この人だけは、止めておいた方がいいです。見た目で騙されちゃあいけませんよ?人間、見た目よりも中身です。見せ掛けだけは立派でも、中身が残念だったら、一生、悔いが残りますからね。
 まだお若いんだし、もう少し、人を見る目を養ってからでも、遅くは無いと思いますよ?」
 ――奥の扉の向こうで、何やら笑い声の様なものが聞こえた。……聞いていたのか。
 しかし、弥生はそれには気付いていない様子で、「は、はぁ……」と、更に顔を伏せた。
 
 零は咳払いをひとつして、言った。
「其れは兎も角、お父上の商売よりも、ご自分の幸せを第一にお考えになった方が、良いのではありませんかね。――ご両親と離れる事が、今の貴女にとって幸せとは思えません。ご両親を大事に為さって、その上で、家族共々、信頼の置ける方を伴侶に選ぶ事が、弥生さん、貴女にとって、一番の幸せではありませんか?
 
 貴女の幸せは、貴女だけのものではありません。貴女に関わった全ての方、特に、ご両親と、そして、庸子さんの為のものでもありますから」
 
 すると、弥生は顔を上げ、少し悲しそうな目をしながらも微笑んだ。
「貴方様がそう仰るのなら、そう致します。……もう、お目に掛かる事は無いと思いますが、――せめてもの気持ちです。お受け取りください」
 そう言って、弥生がテーブルに置いたものは、――鼈甲の髪留めだった。
「お気に召すかは分かりませんが……」
「実は、先程、私も着物を何着か頂いてしまいました。もう着られずに処分なさると聞いたので、勿体無くって」
 桜子が、奥で広げた風呂敷から、ワンピースを取り出して、身体に当てて見せた。――それは、弥生が初めて依頼に来た時に身に着けていたものだった。背格好が同じ位なので、桜子でも十分に着られるだろう。
「あれだけの衣装を、引っ越しに持って行く訳にも参りません。ですが、大して着ていない物ですとか特に気に入っていた物を、無下に処分するのも惜しいと思いまして」
「私、上京して間も無くて、お金も無いから、着る物に困って居たのです。助かりますわ」
 桜子は、次から次へ身体に当てたり袖を通してみたりして、さながら婦人向け雑誌のマヌカンの様に、格好を付けて見せた。
 
 ではこれで、と、弥生が去った後、クククと笑い声がして、見ると、扉の前にハルアキが立っていた。
「――女子とは、恐ろしいものよの」
「何が?こんな素敵な服を私に下さるなんて、とても良い方じゃあ無いの」
「だから、脳の足りない女子は……」
「そんな事ばかり言ってると、もう、干し芋を買ってきてあげないからね!」
 ハルアキは渋い顔をしながらも、続けた。
「――自分の印象の残る物を、お主に着せておけば、其れを見た時に自分を思い出すだろうと云う、何とも淡い執念じゃ」
 ハルアキはそう言って、零に皮肉っぽい目を向けた。
 
 零は、鈴の付いた髪留めを外し、テーブルの上の髪留めで髪を纏めた。
「其の様な事を考えずとも、私が弥生さんを忘れる様な事は有りませんよ。あれ程金払いの良い依頼人は、なかなか居らっしゃいませんからね。
 おかげで、家賃と桜子さんの給金に困らずに済みました」
「――やっぱり、弥生さん、あなたをお婿さんに選ばなくて正解でしたわね」
 
 ツンケンとした態度でティーカップを下げる桜子を見ながら、零は袖口から煙管を取り出した。
 ――さてさて、一仕事が片付いたは良いが、次の仕事が無い。明日から、如何するかな……。
 
 
第壱話 完


>> あとがき
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