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 ―――落ちている。ゆっくり、ゆっくり、闇に向かって。
 この感覚は何だろう?
 冷たい。……しかし、何処か、心地良い。
 ――水?
 
 どうやら、深い水へと沈んでいる様だった。なぜ?
 
 ――なぜだか、零には分かった。
 ………追い掛けている。蝶の様に舞う、布のたなびきを。
 純白の美しい布は、暗い水底へと向かい、ゆらゆらと揺れ落ちていた。
 
 ――私は、誰だ?
 こんな時ながら、冷静にこの状況を理解しようとしている。
 
 ………私は、蛇。水に棲む蛇。――蛟。
 
 これは、蛟の意識なのか?
 そう気付いて、零は、その心の中に深く身を委ねてみた。
 
 ――淋しい。孤独。決して、埋められぬ、喪失感。
 
 黒が淵近辺は、少し前まで、池や沼が豊富に在る地域だった。小川に小さき命が宿り、それぞれの池にも、主が棲んで居た。
 ――しかし、近年、開発と云う名に於いて、人間たちはそれらを無節操に埋めてしまった。
 残るは、黒が淵の蛟のみ。
 
 蛟は淋しかった。「祭り」と称して、人が集まる様を見ていると、その中に入りたくなった。――蛟は、人間になりたかった。
 しかし、どう足掻こうが蛇は蛇。草の陰から、楽しそうなその様子を眺めているしか無かった。
 
 ……どうしたら、人間に成れるのか?蛟は考えた。
 人間と獣の違い。――衣服。
 人間は、色とりどりの着物を着ているが、獣にはそれが無い。
 着物。着物が欲しい。揺らめく霞の様に、美しい着物が。
 
 そんな時、水面からそれが落ちて来た。
 純白のそれは、庸子の花嫁衣装だった。庸子は、源三への愛の証として、白無垢を着て水に入ったのだ。
 蛟は、その美しさに心を奪われ、それを一心に追い掛けた。
 黒が淵は、水の湧き出る底無し沼だ。深い処へ落ちたら、二度と、浮き上がる事は無い。
 蛟は庸子の亡骸に寄り添う様に泳いだ。
 
 ――すると、庸子の思いが、蛟の心へ伝わって来た。
 ………愛する者に裏切られ、命を捨てねばならなかった、寄る辺の無い思い。
 淋しい者同士、同調するものが、其処には在った。
 
 蛟は思った。
 此の者の思いを、果たしてやりたい。
 
 それには、庸子が愛した者の傍に居られる存在、それが必要だった。
 ――丁度その頃、其の者の子が産まれたばかりだった。言葉も話せぬ小さき者の意識を乗っ取る事など、蛟には容易い事だ。
 
 蛟は、御影家の屋敷へ、そっとその身を這わせた……。
 
 
 
 「―――文王、三台、玉女!!」
 九字を切る、鋭い声が飛び、急に手が離された為、零は床へと転がった。――酷く咳き込みながらも、何とか生きている事を実感する。……首が痛い。摩ってみると、爪で抉られた跡に血が滲んでいた。
「何をボヤボヤして居る!其の様に気を抜いておるから、其の様な事になるのじゃ!」
 見ると、黒袍衣に白袴の、目付きの鋭い男が、零を睨んで居た。
「――これはこれは晴明様。……あまりご無理を為さらぬ方が宜しいのでは?」
 ……ついて来ていたのか?しかも、大人の姿に正装で現れるとは、只事では無い。
「そなたの醜態を見て居れば、同じ陰陽師を名乗る者として、情けのうて黙って居れぬわ!」
 その男が袖を振ると、幾枚もの護符が宙に舞った。そして、掛け声と共に、それらは意思のあるものの様に宙を飛び、弥生の周囲を囲んだ。
 
 この様な姿は、零も初めて見たが、この男は、「安倍晴明」と名乗る、あの少年に違い無かった。
 
 「――あ、あの、どなたですか?」
 桜子の声を無視して、晴明は言った。
「長年の物欲に呑まれて、邪気が増して居る。気を付けよ!」
 そして、抱えていた猫を床に放すと同時に、人形(ひとかた)を飛ばした。
「十二天将の一・白虎よ、出でよ!」
 
 ――すると、猫の形が変わった。みるみる大きくなり、その黒い毛並みは色を変え、白に淡い縞模様のある精悍な姿は、まさしく「白虎」だった。
 
 零は何度か見た事がある。晴明の操る式神の内でも、強力なもののひとつだ。魂を宿るものの身体に、人形を介して神霊を憑依させ、意の儘に操る、陰陽師の得意とする呪術である。――しかし、零は式神を使えないので、ここは見ているしか無い。
 
 白虎は、床に爪を立てると、一声咆哮を上げた。
「白虎よ、其の者を、呪縛より解き放て!」
 晴明の言葉に従い、白虎は、真っ直ぐに弥生めがけて飛び掛かった。
 
 首を押さえながらようやく立ち上がり、零は晴明に言った。
「――少々、乱暴が過ぎるのでは有りませんか?」
 だが、晴明にギロリと睨まれただけだった。
「だから、お主は甘いと申して居るのだ。……見ておれ」
 
 零は、弥生の様子に目を向けた。――そして、晴明の言葉が正しいと納得した。
 
 弥生は、ひとつ腕を振り、周囲を取り囲んでいる護符を払った。護符はボロボロに破れ、はらはらと床へと落ちる。
 そこへ白虎が飛びついていったのだが、噛み付かんと牙を立てる虎の首を掴んで、振り回して放り投げた。
 
 「………式神が弱いのではないですか?」
 零が囁くと、晴明は再び零を睨んだ。
「仕方無かろう。憑依させたものが、あの猫なのだ。本物の虎なら、もっと強い筈じゃ」
「……当たり前でしょう」
 
 それでも、白虎は果敢に弥生に立ち向かう。今度はその強靭な爪で弥生を薙ぎ倒す事に成功するが、それに覆い被さろうとした瞬間、蹴り飛ばされ床に転げた。
「――埒が明かぬな」
 晴明は袖口から何やら取り出すと、床に置いた。――亀?
 そしてその甲羅に人形を置き、
「十二天将・玄武、出でよ!」
と腕を振る。
 すると、亀の首と尾が伸び、同時に甲羅も膨らんだ。――そして、尾の先に蛇の様な頭が現れ、本来の首と同時に弥生を向き、シャーッと息を吐き出した。
「……この亀、どこから拾って来たんですか?」
「此処に来る途中の田んぼじゃ。――玄武よ!其の者の邪気を封じよ!」
 
 ……何だか蔵が手狭になってきた。しかし、入口に魔封の護符が貼ってある以上、外へは出られない筈だ。零は後ろに退がり、その様子を見守るしか無かった。
 
 玄武は、その長い尾を弥生の身体に巻き付けた。その束縛から逃れようと、弥生が玄武の甲羅へ爪を立てるが、当然、通用する筈も無い。
 その間に、白虎が弥生へ飛び掛かった。さすがにこれでは避けも反撃も出来ない。白虎の牙が、弥生の首筋へ喰らい付こうとする。
 それを見て、零は動かずにはいられなかった。――このままでは、弥生そのものが殺されてしまう!
 
 零は腰から短刀を取り出した。――黒い鞘に収まった、一尺程の長さの物で、柄に、奇妙な形の髑髏の根付が揺れている。
 それを手に、白虎の前に出た。
「――愚か者が!何をする気だ!?」
 晴明の声に、零は答えた。
「依頼人を守るのは、探偵としての基本業務ですので」
 零は、白虎の大きく広げられた口の中に、短刀を突っ込んだ。縦に持っているので、それがつっかい棒となって、白虎は大きく開いた口を閉じる事が出来ない。
「たわけ!其の様な事を言っている場合では無い――ぐわっ!!」
 
 晴明の悲鳴に驚いて後ろを見た零の目に、信じ難い光景が飛び込んだ。
 弥生の腕が長く伸び、その先が蛇の口となって、晴明の首元に喰い付いていた。
 途端に、式神の呪術が解けた。白虎はただの黒猫となり、瞬く間に蔵から逃げ去り、玄武は亀に戻って甲羅に首と脚を仕舞い込み床に転がった。
「だから……!!」
 晴明が呻いた。――零の甘い考えが、最悪の事態を招いた。そう言いたいのだろう。術師を狙われたら最後。――その位は、零にも分かっていた。だが、ただ見ている事は出来なかった。それが、結果として、弥生にその隙を与える事になってしまった。
 
 弥生の腕は更に伸び、晴明の首に巻き付こうとしていた。――このままでは、晴明自体の呪術も解けてしまう!
 
 その時。
「えいっ!!」
 掛け声と共に、零の視界に桜子が飛び込んで来た。手に、先程渡した合口が握られている。それを弥生の腕の蛇めがけて振り下ろした。
 それは、弥生と、中の者にとっても予想外の行動だったようだ。鱗に覆われた身体から血を噴き出しながら、悲鳴の様な音を上げて、弥生の腕の中へと引っ込んだ。
 蛇の牙から解放され、晴明が首を押さえながら言った。
「そなた、学の無い脳無し女だとばかりと思っておったが、あの男よりも度胸が有る事は認めてやろう」
「あんた、あのハルアキとか言うガキんちょみたいな事を言うのね!失礼しちゃう……キャアッ!!」
 桜子の反論は、最後まで続けられなかった。突然、意識を失ってその場に倒れたのだ。
「――おい!!」
 晴明がそれに駆け寄る。――と同時に、零の脇で、弥生までもがガクリと床に崩れ落ちた。咄嗟にそれを抱き支え、零はハッとした。
「晴明様!その者からお離れになって……!!」
 
 しかし、時は既に遅かった。
 突然、桜子が顔を上げ、合口を握った腕を、晴明へと伸ばした。
 
 合口の切先は、黒袍衣の胸の真ん中に突き立てられていた。


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